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【吸死考】145死グッマザ主従対比

グッマザ」が「主従馴れ初め回」と対になっているかもしれない話、します。


※この記事は週刊少年チャンピオンで連載中の漫画『吸血鬼すぐ死ぬ』(著:盆ノ木至)の考察記事であり当該作のネタバレを多分に含みます。
※最新コミックス・ファンブックまでの内容の他、原作者・公式アカウントツイッターで過去発信された情報に触れる可能性があります。ご注意ください。


グッマザとは144死&145死、ドラルク子供化し母に誘拐される回。
主従馴れ初め回とは55死&56死、言葉通りドラルクとジョンがどうして主従になったかの回想回のことです。


ことに気づいたのは2021年。

え、というか144死&145死のショタ化誘拐回、冗談抜きで55死&56死のジョ+ド馴れ初め回と対になってる? 子供の精神でも「家族」と「今一緒にいたい誰か」というのは違う、というのは判断できるし、それは家族が嫌いという事ではなくて、写真(絵)を頼りにドラルクのいる場所まで駆けつけて……?

━Twtter/ 午後3:26 · 2021年10月20日

此方↑、その際のツイート。
とても興奮している。

このとおり、提示された問題とその回答、そして回答に至るまでの要素に見逃せないほどの共通があるんですよね。

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グッマザ(144死&145死)ではドラルクが子供の姿に変身させられ、母ミラに攫われてしまいます。
その異様さにロナルドたちは自然と「追いかけよう」と考えますが……

直後にやってきた父ドラウスは、ミラの動機は「人間たちと一緒にいること」かもしれないと推測する。

ここで、「流れで当然のように同居継続してきたロナルド」の中に、「問答無用で攫うほどに親が同居を懸念している」という問題点が提示されます。

ドラルクと人間(退治人)の自分は一緒にいるべきなのか?

それまで、同居継続の危機が訪れた際は……フクマさんや世間体を理由にしたその場しのぎの思考が何度かありましたけれども。
改めてロナルドが「自分はどう思うのか」「ドラルクにとってはどうなのか」と問い直す機会が生じたんです。

55死で「仲間たちに囲まれて楽しそうなジョン」を見たドラルクの脳裏にも、同種の問題が持ち上がっていました

ジョンと仲間を引き離してまで、自分の使い魔にするべきなのか?


そして……2人は真逆の結論を出します。

ドラルクのもとへ


同じ種の問題を突きつけられたロナルドとドラルクでしたが、その問題への向き合い方は全く逆でした。

55死ドラルクは「自分の使い魔になるより、故郷で仲間達と一緒の方が幸せに生きられる」と考え、ジョンを南米に置いていきました

145死ロナルドは「事務所を離れるのはドラルクの意に反したこと」と判断し、「連れ戻すぞ」とレンタカーを飛ばして迎えにいきました

「持ち上がった問題に対し、改めて決意する」。
「突如目の前からいなくなったドラルク」。
「追いかけて、探し回る」

ストーリー展開における、要素は同じなんです。でも逆になる。

立場が違うからです。

ドラルクの前に問題が持ち上がり決意してから「いなくなった」のと、
「いなくなった」後から、ロナルドの前に問題が持ち上がり、「連れ戻す」決意をしたのと。

展開の順序を照らし合わせると……
145死ロナルドの立場は、56死で言えばジョンの位置です。

いなくなったドラルクを追いかける役


ボロボロの画


ジョンは「ドラルクにもらった絵」だけをヒントに各国を渡り歩き、ルーマニアのドラルクのもとへ到着します。
ボロボロになっても持っていた城の絵によって、ジョンは城に近づいていると気づく事ができたのです。

ロナルドは「ドラルクから送信された写真」に映り込んだ景色だけをヒントに場所を割り出しては追いかけました。
そして最後には、ボロボロに破壊されたドラルク城の写真によって、ドラルクのもとへ駆けつけた。


「ボロボロの城の画」がキーになり、ジョンとロナルドをドラルクの元に導きました。

勝手に「何かしてやる」な

ロナルドたちが追いつき、ドラルクの記憶がはっきり戻ると……

私の意思も聞かずに勝手に”何かしてやる”んじゃねぇ!!

━「吸血鬼すぐ死ぬ」12巻145死

息子を連れ回していたミラは、変身が解けたドラルクに怒られてしまいました

何かするなら相手の気持ちをまず聞け、というごもっともな話です。

そんな風に145死ではミラを叱る立場のドラルクですが……
「ドラルクがジョンにしてしまったこと」もよく考えると「ミラがドラルクにしてしまったこと」と一緒なんですよね。

56死ではジョンがドラルクに怒っていた

ニュ"ニュ"ニュ"ニュ"ニュ" ニュ"ニュ"!!
ニュ"ニュ"ニュ"ニュ"!!

━「吸血鬼すぐ死ぬ」5巻56死

泣きながら喋っているジョンの言葉は(読者としては)中々読み取りづらいです。でも、ミラドラルクの構図と対比されている前提で見ると、「似た内容」で怒っていたと解釈できます。

ジョンの意思を聞かずに出て行ったことを、怒ったんでしょう。

145死で「ドラルクがミラに怒った内容
       ||
56死で「ジョンがドラルクに怒った内容

ですね。

さらに、ミラのパニックぶりも、間接的に察することができます。

狂ってた瞬間


ドラルクがジョンを置いていったのは、相手の幸せを願ってのこと

ミラもそうです。ドラルクの幸せを願っていた

あれだけ「ドラルクと過ごしたい」と思いながらドラルクの為を思って傍を離れ弁護士の仕事をしていたミラ。
「ずっと一緒にいられる」という思いを封じ、ジョンの為を思って傍を離れ寂しさを我慢していたドラルク。

よく似ています。

結果、ミラはドラルクを誘拐してしまったし、ドラルクの部屋は丸まみれになったんですけどね。

これが同じ心理から来るものなら……「ヤバイ状態」だったんだと思います、ミラは。


本人の意思も聞かず子供の姿にして連れ去ったのは……人間の感覚からしても「ヤバかった」ですが。
人間の視点から見なくても……吸血鬼にしても、ミラの人格から考えても、異常事態だった。

ドラルクの部屋が丸に病んでいったのと、同じってことですからね。
「狂ってた」んです。

思い込みが激しくて意識をしないと対話が足りなくなり、自分が寂しいのもどうしようもなくて、無意識に暴走する
この辺り、かなり母譲りらしいですね、ドラルクは。



子供の幸せの為に


ミラはドラルクの為に、ドラルクはジョンの為に、相手の意見を聞かないまま「為になること」を実行したわけで、それによりドラルクに、ジョンに怒られる訳ですが……。


でも、一概にそういう行動がよくないのか、というと、違うんですよね。

だって、ミラが弁護士の仕事をしていたのは、実際ドラルクの為になっているから。

FB2によればミラはドラルクが生まれる前から争いの調停ごとをやっていたらしいです。
ドラルクが生まれてからは一層人間と吸血鬼の溝を埋め「ドラルクが平穏に生きられる世界」を作る方向へ向かったようなんですね。

ドラルクが生まれたばかりの時期にそういった決断をしたなら、「本人の意見を聞く」なんて不可能です。

もし聞けたとして、赤子ドラルクが母の不在を寂しがるのは当然で、それはミラもわかっていたでしょう。

でも、それでも勝手に親としてアレコレした。
それが子供の幸せの為になるだろうと。

それに対して「勝手に”何かしてやる”のはよくない」と、バッサリ切り捨てるなんてこと、誰にも出来ません。

ロナルドとドラルクが面白おかしく過ごせるのは、ミラが懸命に努力したお陰です。
ヘルシングさんと御真祖様の出会いが発端ですけれど……彼女がやったことも大きなピースで、欠かせないもの。
武力でなく、法で共存を測れるのが示されたから無闇な争いが減って、過激な争いが減ったから、吸血鬼がおかしなことをやっても捕まえるくらいで終われるようになったわけです。

吸血鬼だと知られても、ルールを守っていれば無事。そういう時代。

見てごらん ドラルク
お母様のことが載っているよ
お母様は毎夜頑張っているんだよ
吸血鬼と人間らが無益に争わないように
おまえが幸せに暮らせるように----

━『吸血鬼すぐ死ぬ 12』145死

確かにちゃんと、「ドラルクが幸せに暮らせるように」という彼女の目的に叶っています。



まあ誘拐は全面的に狂ってたんですけども……。
やっぱり、今までの皺寄せですよね。

自分を抑えて、子供の為に……というのが、うまく行っていたとしても、
感情…「寂しさ」が消せるわけではないですし。

どこかで発散しないと駄目だったんです。
ミラは、それすら忘れるくらいに一心不乱だったと。
それで平和になって、ドラルクが城から出て、初めて気づいて。一気に大波が訪れた。

「少しの間のつもり」の誘拐も。

ドラルクの現況に焦り、衝動で行動を起こしたなら……あの後どんな風に帰すかも決めていなかったでしょうし。
どこまで延長していたかは予想できないですかね……。


ドラルクも母似ですから。

もしもジョンと離れたきり、二度と会えなかったとしたら、彼は……
丸に病んだ部屋以上に、すごい狂い方をしてたのかもしれません。

いつかミラみたいに、皺寄せの大波がきていたかも……。


本当に、「追いかけて探し出してくれて、よかった」。


ジョンが、ロナルドが、「追って探し出そう」と決意してくれて、よかった


連れ戻すぞ


ドラルクと人間(退治人)の自分は一緒にいるべきなのか?


この問いに、ロナルドは「連れ戻すぞ」という答えを出し、車で追いかけました。

理由として「qs4もカンオケも実況用PCもここに置きっぱなしだ」と挙げていますが……
当然ながら、「ドラルクの私物が事務所にあること」だけを言っているのではないでしょう。

…ああ あいつ面白そうなことばっか考えて
生きてっからな
…退屈しないよ アイツが来てから

━ 「吸血鬼すぐ死ぬ」12巻144死

ドラルクが、楽しそうだから
それで自分は迷惑することもあって、怒ったりもするけれど、それでもずっと楽しそうに事務所にいるから
そのことを「退屈しない」と、好ましく思う自分にも気がついている

だから、ゲーム機を割り勘にしたんです、ロナルドは。
割り勘っていうのは、「共用しつづける」という予測が立たないと成立しません。

「映画をサブスクで見る」目的があったとして、その道具がゲーム機である必然性はないですしね。
そりゃ、映像がよければ嬉しいかもしれませんが……最低、PCがあればサブスクは見れます。


それでも割り勘でゲーム機を買ったというのは、「ドラルクとの同居が続くこと」ありきの思考です。
ドラルクがいればゲーム機は必要になるし、ゲーム機が必要なら自分の目的にも叶うものがいい、と。


ドラルクが事務所での生活を楽しんでいて、自分もそれをなんだかんだ歓迎しているのもわかっていて。
その証拠として、「楽しい同居生活に必要な、大事なもの」を挙げた訳です。


「楽しかった時間」に、確信があったから。


きっと55死56死のジョンもそうでしょう。

ドラルクと一緒にいるのが楽しかった。
ドラルクも楽しい筈だと思っていた。

「ずっと一緒に暮らせる」とまで言われたのですから。

そうすればずっと一緒に暮らせるからね
私の住むお城に連れて行ってあげるよ〜

━『吸血鬼すぐ死ぬ 6』55死


だから追いかける。
「追って探し出そう」と決意した



つまりこうだ


【56死】
①ドラルクに問題が突きつけられる
「家族や仲間といるべき」⇆「ジョンとの時間が楽しい」
ドラルク去ることを決意。
「仲間といた方が幸せ」
③ジョン、ドラルクを追う
(ドラルクの城の絵をヒントに探し回る)
ボロボロになった城の絵が決め手に
ドラルクのもとへ到着。
ジョン、ドラルクに怒る
「ニュ"ニュ"ニュ"ニュ"ニュ" ニュ"ニュ"!!ニュ"ニュ"ニュ"ニュ!!」
⑥ドラルク「ジョンの為に勝手に去った自分」の過ちを認める

【145死】
ドラルク去る
「さあ行こうドラルク 母さんと一緒に」
②ロナルドに問題が突きつけられる
「家族が心配して連れ去った」⇆「ドラルクとの暮らしが楽しい」
③ロナルド、ドラルクを追うことを決意。
(ドラルクから送られる沢山の写真をヒントに探し回る)
ボロボロになった城の写真が決め手に
ドラルクのもとへ到着。
ドラルク、ミラに怒る
「私の意思も聞かずに勝手に”何かしてやる”んじゃねぇ!!」
⑥ミラ「ドラルクの為と勝手に行動した自分」の過ちを認める

全体の流れの共通をまとめると、こんなかんじですね。


「子供の為に」と親が勝手にアレコレすること、それそのものが総じて「悪い」わけではありません。
実際ミラのそれがうまく行ったから、ドラルクはロナルドの事務所に来て、ワーワー楽しく暮らせているわけです。

ドラルクも、ミラのそういう愛情のあり方を受け継いでいて、ジョンに対して似た様なことをしたんじゃないでしょうか。

幸せに暮らせる様に」と。

しかし……
世界をどうすれば「幸せ」か……それは子供にはわからないかもしれませんけども。

子供の精神でも今一緒にいたいのは誰か」というのは、判断できる。
「家族」かどうか、血が近いか。そういうことは、「一緒にいたい気持ち」とは関係がない。
「離れること自体が相手の為になる」なんて、勝手に決めることはできないわけです。

それに、「子供の為に」と傍を離れる側が負担に耐えうるか、という問題も別にあります。

ドラルクは、「一緒にいたい気持ち」を抑えるのはあまり向いていないようですね。
ジョンと離れたときも、部屋が丸に病んでいってしまいましたし、攫われた時もロナルドたちに無意識に写真を送っていました。

ミラも、本来は似たところがあったから。

ドラルクの変化をキッカケに抑えられなくなり、息子を少年に変身させ誘拐してしまったわけですね。
とんでもない暴走でしたが……

ミラのしてきたことの価値、「息子を思う気持ち」をドラルクは分かっていた為、酷くこじれることは無った。
ここはとても、安心できるところでした。
この辺は、全面的にドラウスのお陰です。
今までドラウスがミラについて誇らしげに、愛情をこめて伝えてきたお陰

自分のコミュニケーション不足を、ドラウスがちゃんと補ってくれていたこと。
ミラは気がついたんじゃないでしょうか。エピソードの最後に夫と手を取り合うミラの姿をみると、感謝が溢れていたように見えます。
「ああ、私はこの人がいないとダメだ」と。

ドラウスとミラは、ジョンとドラルクのように常に一緒にいるわけではありません。
ですが、弁護士として世界を変えるのはドラウスにはできず、親としての絆の育みはミラには不得手です。
足りない部分を補い合っている。一人では見えなかった景色を見て、共に生きています。

ドラルクも、ロナルドが城に退治に来なかったら今だって、城の中でゲームして、せいぜい夜の散歩をするくらいの生活だったかもしれません。
ロナルドも、ドラルクが事務所に来なかったら休みの日にゲームなんてせず、日々を仕事で埋めていたかもしれません。
その息のしやすさ、順調さに、誰のお陰で世界が広がったか、日常では意識しないかもしれませんけれど。

離れかけたら、やっぱり引き戻すし。引き戻してもらったことに、ああ、よかったと安堵する。

ミラは、ドラウスと。
ドラルクは、ロナルドと。

それぞれ「追いかけてきてくれた人」と共に、それぞれの居場所に帰っていきました。


グッマザは、
「ドラウスとミラ」のように補い合う「ロナルドとドラルク」が、「56死のジョンとドラルク」のように「一緒にいたくているんだ」とはっきりと自覚して、表現し。
そしてその傍らで、「ドラウスとミラ」が「56死のジョンとドラルク」のように「離れ難いこと」を再確認した。

そういうエピソードだったのかなと、思います。


55死&56死で描かれたドラルク&ジョンの強い絆が、今度は「ドラルクにまつわる別の絆」の強さを裏付けている。

もちろん145死でロナルドがドラルクの使い魔になった訳ではないですから、同質の関係ではないですけれども。

「ドラルク&ジョンと重ねられるような関係」として。
ドラルク&ジョンの絆が強く描かれれば描かれるほど、ロナルドとドラルクにも、強い繋がりを見ても良いのかもしれません。

twitcasting.tv

追記(2023/5/3):記事読んだ方からご質問をいただいたので回答しました↑。動画なので音声ベースですがご興味があればこちらもご覧ください〜

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