今更ながら「奥様っソ」4本続けざまに見たんですけど
もう
これすごいですね……
単純に「面白かった」っていうのもなんか違う気がします。
いや興味深くはあったけども、ニュアンスとしては「脳に刻まれてしまった」感覚の方が強かったです。
笑えたわけじゃないし、興奮したわけでもないんだけど、「薄皮一枚隔てた別の世界を見た」みたいなインパクト。前置きしておくと、否定派ではありません。
ただちょっとぐるぐる考えてしまって疲れるので、記事にして負担軽減を図らせていただきます……。感想のような考察のような。
※こっから先ネタバレあります
「このテープ持ってないですか?」のネタバレも微かに含みます。
まだご覧になっていない方はTverで配信している内に視聴をおすすめします。ただ、気分の良い内容では決してないので、そこらへんは自己責任で……。
「怖い」と「不快」は自然
ひとまず「積極的に気づかせようとしている」真相の概要として、黒背景の但し書き&ニュースパートで明かされた部分。
家庭内不倫と殺し、と村の儀式の名目で行われる暴力、殺し。
この時点で受け付けない人、いるだろうな……。
「不自然と思うのは自然」という但し書きがある通り、
「気持ち悪い」「怖い」「残酷」という印象をたぶん端から想定して作ってるので。
これを「受け付けない」のも、視聴者の感想として自然なのでしょう。
自分は、事前情報入れちゃったのもあって、作り手の意図を完全に感じつつ見ていたので、心的ダメージは無闇に引きずる感じではないです。
批判的な見方を前提に作ってるということは、作り手と自分は価値観の齟齬を起こしていないってことで、安心できたので。
ただ色々脳に情報として明確に叩き込まれた感はある。こんなん忘れられん…
キモイ設定
軸はあの「キモイ設定」だよな、と。
解釈諸説ありますが、情報まとめてくれている方がいたので、URL記載させていただきます。
手間をかけて集めた情報を共有してくださり感謝します……。
orsonblog.hatenablog.com
はい。
一通り真相を頭に入れましたでしょうか?
いや、メチャメチャ気持ち悪いですよね?
オッサンが「ルールだから」って若い女の子に性を強制したり、逆に都合よく恋人同士になるシチュエーション……
普段だったら過度に貶めることになってしまうから慎重になる言い回しですけど……
たぶん「奥様ッソ」は「キモイ」って思われるの想定してるだろうから、ちゃんと触れます。
「奥様ッソ」の取材先家族の背景にある真相って、
いわゆる「ご都合主義工ロ」でありがちな……女体消費目線の欲望にフォーカスしているんですよね。明確に。
昨今のweb広告の傍若無人ぶりだと一度は目にしたことあると思います。
『義理の娘とお風呂場で……💕』みたいなの。語尾にも画面にもハートとかついてて。
『村の伝統で若い娘と……💕』とかも、うん……見たことある気がしてくる…広告…
で、その設定がホラーサスペンスと直結してる。
ここがすごい発想の隙間……で……。
「そうだよね、その『欲望』を成り立たせようとしたら"こうなる"から工ロはファンタジーなんだよね…」
の気持ち。
知ってる。
いや、知ってたはずだった。
親和性、高いに決まってた。
だってそもそもああいう「ご都合でいろんな尊厳を無視した工ロ」って、消費された当人やその関係者からしたら、「残酷」なものだから。
「消費した側(ここでは男性)」が最終的に「残酷」な顛末に取り込まれる構図は、筋として地続きなんですよね……。
消費する男たち
大家族編は花梨ちゃんがすごく怖い女なのが印象的で、旦那は本意じゃなかったように見える。ニュースパートの供述も旦那は「娘に頼まれて」とか受け身な理屈。
でも、LINEのメッセージが映り込んだカットを見ると旦那側も不義を嫌がる素振りがないし、娘と進んでやらかしている。そして、奥さんとも全然ラブラブで普通に子供を作っている。
もうさ……『年上彼女と結婚したら、義理の娘が迫ってきて……』なご都合シチュエーションに身を任せて「モテすぎて困っちゃうな〜」て貪ってたらこうなったんだろうな……てのが透けてる。
というか娘のアタックを受け入れてる時点で最初から食えるもんなら食いたいと思ってたろうね。自分から求愛はしてないけど、下心ありつつ優しくしてたら思いのほか引っ掛かっちゃったとかかな。
いや本当に最悪だ……。
「大家族編」だけの情報で考えると花梨が能動的に暴走してて。奥さんや犬は悪くなくて、ひたすら被害者ですけど。
旦那が「自分の意思じゃない」みたいな供述して被害者ぶるのはちょっと違うよなぁ〜って感じるし、作り手もそういう意図なんだろう。
式中村には『能動的で最悪な男(村長)』が出てくるので、翔は『受動的で最悪な男』なんだと思う……。
そして2人とも、殺しをするところまで行ってしまって、表沙汰になり、捕まる。
桃也くんは正気なだけに、大人男性2人の最悪さがエグい……。
姉と父を通報したの、桃也くんだろうな。強く生きてくれ……
消費の外側
いくらフィクションとわかっていても、ああいう近親モノだったり殺しだったり集団に紐づいた虐待だったりの設定が苦手な人、世には当然いると思うんだけど。
現実ではあんなの「思いっきり犯罪」な、だけにね。
ああいう色々な尊厳を無視したシチュエーションをフィクション工ロに求める人も……いる訳で。
前提として、フィクション工ロ自体は「いけないこと」じゃない。だって、現実世界で被害者を生んでいる訳ではないし。現実の被害は問題視されるべきだけど、フィクションをそれと同列に語るのは違う。
でもだからこそ……そういうものを消費してる時ってマァみんな「フィクションだから」と思ってて、安心しきってるんだよね、きっと。
フィクションに映り込んでる「工ロシーン」の外側で起きてることなんて考えない。
しかし「奥様ッソ」は……『そこ』に敢えてカメラを向けてる、気がする……
「どこかの広告で見かけた工ロ漫画の『消費されてる工ロシーン』の外側では”これ”が起きてるだろうね?」っていう…さ…
たぶん視聴者に違和感抱かせる為にかなりわざとらしく作ってあるから「現実味がある」と感じた訳じゃないんだ。だからこそ冷静でいられるんだけど。
そういうパラレルワールド感。だよな……。
あれが成り立っちゃってる「フィクションの世界」には、「奥様っソ」のような「ご都合エロの皺寄せ」にニアミスしちゃってる番組が”在る”だろうなって……そういう発想が脳に届いてしまってさ……。
「我々の世界」ではあくまでモキュメンタリーであり「不自然」を前提にした特別な表現だけど、
「ご都合エロの世界」ではありふれたバラエティなんじゃないかな…それこそ「ありふれ」すぎて視聴者が気付いても別にいいと思ってるくらいの…
例えるなら……
本題と全く関係ないのにテレビ番組で「無駄に女性の胸元をアップするカメラワーク」を入れて消費者のニーズを満たそうとしてる感じ?
現実現代ではそういう意図を見せると不評になるけど、「そういうものが積極的に差し込まれた時代もあったよね」というステレオタイプ。あるじゃないですか。
(「このテープ持ってないですか?」を視聴済みなのでこういう例えが出てきちゃう……)
なんだろう、「そう」とは一言も言ってないけど、カメラでうつすからには「見たがっている人」をカメラの向こうに想定している空気。通ずる気がして。
こっちは求めてもいなけりゃ想定もしてないから「何今の?」って思うけど、作中の番組スタッフが想定している視聴者には「違和感」では全くない。
我々の世界では「違和感に気がついてもらうための親切なカメラワーク」でしかなくて、それを元に「謎解き」する。その一連の思考は、視聴者側にとってもエネルギーを要するんだけど。
あの世界の視聴者は、カメラワークだけで察せるくらいには……あの真相に「慣れてる」。慣れてる上で、「喜んで消費してる」んだと思う。
「あんまりよくない」のはわかってるけど、「よくあること」だとも思ってて、黙認してる。
たぶんMCのAマッソもスタッフも、「ある程度わかってて無視してる設定」じゃないかな。
金田さんは……花梨の不倫くらいまでしか察せないか?と思うが(そうじゃないとハンバーグを食えてない気がするし)
カメラマンと編集スタッフはわかってそう。
村編は撮影が終わった後にスタッフが通報した気がする。
そうじゃないと村人全員グルで握りつぶされて終わりだから。
殺人は流石に通報するけど、その他の事柄に関してはあの世界では「視聴率を稼ぐ消費の対象」なのかなって……。
……なんかね。
こういう世界観が「怖い」っていうのは、結構な人たちと共有できるとおもうんですよ。
なんの決断もせず不義をしてる癖して、ずるずる快楽だけ貪ってそれが「愛」だって思わせたり。
薬で洗脳し集団みんなに心酔させて、その圧力で自分の欲望を「神聖」なことだって思わせたり。
「大人が子供に『これは仕方ないんだ』と文化的刷り込みをして、搾取すること」を黙認する世界。
それが「殺人」として世に出るまでは、どこまでも放置されてしまう世界。
すごく怖い。
こんな世界やだなって思うんだけど……。
でも「このテープ持ってないですか?」と合わせて視聴すると、所々「通じて」いて。
現実現代では理解しにくい価値観の世界で。
「いやだ、キツイ、こんなの間違ってる」と思っている誰かがいても、
口を噤むしかなくて。
そして主張したところで、真剣に取り合ってもらえないのが予想できる。
「このテープ持ってないですか?」の作中劇で出てくる「MC&男性陣」に「女性出演者」は逆らえないんだな……とわかってしまう、あのやるせなさと似ている。
アイドルの女の子が「あなたのそういう言動、失礼じゃないですか?」て怒り出しても多分誰も本気にしないだろうなって予想がつく、あの文化的圧力ですよ。
「怒ってるのもかわいいね〜」「〇〇ちゃんこわ〜い」「ヒステリーキャラ?」なんて、ひと笑いして終わりだろうなっていう。
抵抗しても、なかったことにされる。冗談にされる。それすら消費されて、握りつぶされる。
「このテープ持ってないですか?」は「なんか覚えがある嫌な空気」から導入して行った分、「奥様ッソ」の「異界感」を現実に橋渡ししちゃってる気がする。
「女体にあからさまにフォーカスするのと、不穏に触れないフリしてフォーカスするの、違うけど、同じだな……」て。
「奥様ッソ」の「性関連の"最悪さ"を黙認する文化」。知っている気がしてくる。
表向きは不倫も強姦もダメです、って皆いうけれど、そういうものだから……って潜在的に踏み躙られている尊厳が大量にあって、無視されている。
「花梨ちゃんとパパが一緒にお風呂に入っている」をカットもせず触れもせずに垂れ流すテレビ文化の背景に、「赤信号って本当は渡っちゃダメだけど、みんな渡ってるししょうがないよね」と安心するような軽んじ方がある。「言葉上深く触れさえしなければ流してもいいし、そういうちょっとした『乱れ』はみんな見たがってる」って。
『そこつつくの野暮でしょ?』『でも皆こういうのやってるし、見たいよね?』…てさ…。
桃也くんや莉々子ちゃんみたいに正気な子もいるにはいるんだけど、「文化の中で麻痺している尊厳破壊」に逆らうのって、本当に孤独で。こういうふうに辛いものなんだよなって……悲しくなっちゃったな……。
でもご都合尊厳無視工ロ漫画の設定を成り立たせた世界を作ろうとすると、自動的に尊厳意識を歪めた世界にするしかなくなるんだろう、というのは、わかる。
そういう思考実験を「奥様ッソ」はしている。その向き合い方が『ガチ』だから、作品自体には「すごいものを作りましたね」という気持ちがあります。
はぁ〜。……桃也くんが花梨ちゃんのこと苦手って言った時に「年頃はそういうもの」って済まされたのに反論しきれないの、キツくてな……。
「これを口に出しても助けてもらえず消費されるだけ」って思ったら、言えんよな。
「花梨ちゃんとパパが一緒に風呂入ってる」をカットもせず触れもせずに垂れ流すテレビ文化に向かって言えるかって話だ。
「世にも」に通ずる
この読後感、たぶん「世にも奇妙な物語」だな……そういや……
コンセプトも企画も全然違うと思うけど、こっち側でわきおこった感情が似ていた。
「現実味」って訳じゃないけど、理屈や概念としての説得力があって、別世界に連れていかれる……みたいな。
そうね……
うん……こんな「ご都合工ロの外側」なんて真面目に考察しようとも普段おもわないから、
「奥様ッソ」を見た今の自分と見てなかった昨日の自分の中になんらかの差異が生まれた気がするよ……
そういう意味で「すごいものを見たな」という感想です…
というか、あれですよね?
「このテープ持ってないですか?」と「奥様ッソ!」の企画考えたの同じ方らしいですけど、
明らかに男性の女体消費の目線を「人間の気持ち悪い部分」としてしつこく描いてますよね……?
たぶん、人間は「誰かが尊厳を踏み躙られている様」を見ると気分が悪くなるから、という理屈で、その代表として「男性から女性へ」のそれを採用してて
究極「コミュニティの文化を作っている強者→尊厳無視→弱者」という構図であれば、別に「男性→女性」じゃなくてもいいと思ってそうですけど。
たぶん「大人→子供」の構図もそうですね。
その考え方が冷静で正気なので、「嫌なもん見た」より「これ作った人はちゃんと「嫌なもん」について考えてるな……」て感覚が勝るんだと思いました。