【※ネタバレ注意!漫画『吸血鬼すぐ死ぬ』単行本収録分/公式ファンブック1・2/作者Twitter発信情報】
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「切迫した状況」
だって実際、ドラルク城に行ったきり子供が帰ってきていない。
そしてドラルクがどんな人物か、依頼人にもロナルドにもわかりませんでした。誰も実態を知らなかった。
あの虚弱さで「真祖にして無敵」という噂が通用していたというのは、そういうことですね。
そもそも「無敵」がどれくらいの強さなのか見当もつきませんし。
一方、確かな情報もあります。ドラルク城の存在です。
ドラルクが埼玉に住み始めたのは戦後しばらくしてから(FB1)ということなので50年以上はあの土地に建っていたことになります。50年というと、1世代は確実に入れ替わる程度の月日です。親世代にとっても自分の親が子供の頃からあった建物。それが散々観光材料にしても所有者から何の音沙汰もなく、昼間に住人を見かけないとなると、もはや「誰かが住んでいるのか?」という部分から疑わしいですが……。
あの城には窓がある。1死脱出の際につかいましたね。そして、夜になると明かりがつきます。
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— 日刊月チャン@創刊53年目! (@nikkangecchan) 2017年11月29日
ΘゝΘ部屋を明るくしようかジョン。我々は暗闇でも物が見えるが、真っ暗にしているのも趣が無い。ジョン、あんまり近づくと腹毛が焦げるぞ#ジョンかわ
— (アニメ吸血鬼すぐ死ぬ2配信中!)盆ノ木至(25巻発売中!) (@bonnoki) 2017年11月29日
(『ほぼ日刊アルマジロのジョン』の37~40では旧ドラルク城時代のジョンの様子が描かれています)
こうなると「何者かが住んでいる」というのは、噂といえど、かなりの信憑性があります。
吸血鬼が住んでいるか、人間が住んでいるのか。
いずれにしても城に主がいて、意図的に客を帰さないのなら誘拐(監禁)であり、子供は危険に晒されていることになります。
城の主が友好的な可能性も無いとはいえませんが、友好的ならどうして夜になっても城にやってきた子供を帰宅させないのか、連絡の一本もさせないのか謎です。観光バスだって通るような場所ですし。未開の地でもない。帰そうと思えば帰せるし、それが憚られるなら連絡手段だってありますよね?生活しているんだから。
でもそんな気配はない。「子供の近くにいるであろう何者か」が一時的な保護者として動く気配がない、というのはなかなか不安にさせられます。
しかも、1死ラストで朝日が登っていたのをみると、ロナルドが城に駆けつけたのは深夜以降と考えるのが自然ですからね……。日付も変わって暫くという時間帯なら……吸血鬼の生活リズムから見ても「わざと城に留まらせている」ように思える。
さらに言うと、1死冒頭で依頼人の周りに集まっている人数。結構います、大人が何人も……。
おそらく近所の住民でしょう。
あの人数で「子供がいない!」と心配しているなら、まもなく夜も明けようという時間まで城以外のどこも探していないなんて、そんな訳ないと思うんですよね。
周囲の捜索をした上で、残るはドラルク城のみ、という状況だったんじゃないでしょうか?
心当たりのあるスポット、子供の足で行ける場所の一つ一つを確認して、ここにもいない、あそこにもいなかった、じゃあ探していないのは、あの城だけじゃないか、って。
この時点でだいぶ、フラットな視点から見ても「城の主に対する不信」が生じている。
それも、結構な濃度で。
吸血鬼かどうかに関係なく、両親や地元民は「ここに子供来てませんか?」と訪ねるべきだと考えていた筈です。ただ、強くて危険な吸血鬼だったら手に負えない、そういう噂が実際あるから、退治人を呼ぶしかなかった。
相手が危険な吸血鬼ならば、その脅威から一刻も早く、子供を助け出したいですよね。
吸血されると体力が失われますし、噛み付かれたり刺されたり、怪我をしているかもしれない。
そうなると自力では逃げられない……さらに子供は大人より限界も早いですから、本当にスピードが重要です。
ここですよね。
やっぱり、状況的には切羽詰まってるんですよ。
確かに相手が「どんな人物か」はわからない。
でも疑うに足る条件、強引になってでも判断を急ぐ条件は揃ってしまっている。
市民から見ても、そして、社会を守る立場の警察から見ても、「退治人の牽制」を容認するだけの理由は在る……。
「通報されても大丈夫」です。これは。
さらに言うと、
3死の「空砲ハッタリ」が「1死でロナルドが本来やりたかった流れ」の例示として描かれたなら……銃もハナコの時のような「空砲にいつでもできる状態」だったんじゃないでしょうか。戦闘も想定しているけれども、ハッタリで終わる事も想定している。
そうやって安全に「攻撃のポーズ」で脅して、抑止力&判断材料に、と。
ハナコの例の華麗な解決を見ていると、「これがやりたかったんだな」って、感じですが……。
いや……うん……。
正直、空砲とか「実は安全」とかそういうのに関係なく、ドラルクにロナルドの脅しは全然効いてないんですけどね……。
「脅し」というコミュニケーション
ハナコの脅しを「リスク無視言動」で無効化したロナルド、でもわかるんですが。
「これってこういうリスクがあるよね?それ嫌だよね?嫌ならどうするべきなの?」
という認識を共有していないと、脅しって全然効かないんですよ。
相手の文化や価値観に響かないと、無効。
「脅し」というものは実は、「文化的なコミュニケーション」なのです……。
そしてロナルドの「脅し」の意図は全くドラルクに通じていません。
<ロナルド>
とぼけるなショタコン!とっととさらったガキを出せ!
<ドラルク>
誰がショタコンだ
私の好みは うなじのキレイな美少女だ
━『吸血鬼すぐ死ぬ 1』1死,p.9
通じていないから、この返しになったのです。
上のやりとりにおいて、ロナルドの言いたい事は「とっととさらったガキを出せ」に詰まっていた筈です。
だってそうですよね?
俺はお前を誘拐犯だと思っている、だから退治にきた、退治されたくないなら子供を早く返せよ、とそういう話なんですから。
けれど、ドラルクが反応を示したのは「ショタコン」というワードです。
つまり「さらったガキ」という言葉を全然重要視しておらず、「子供を攫ったと思われている」ということに不思議と無関心なのです。訂正内容が「好みは美少女」なあたりも、「小児誘拐の疑いから逃れたい」という意思を全く感じません。
「これってこういうリスクがあるよね?それ嫌だよね?嫌ならどうするべきなの?」
の脅し構文の中の、初っ端「吸血鬼が誘拐なんかしたら退治されるよね?」が、まず、伝わっていない。
ここが伝わっていないのでいくらドラルク側に「退治されたくない!見逃してほしい!」という意思があったとて、ロナルドが望む「誘拐した子供を返す」とか、「自分は誘拐犯でないという主張をする」とかの反応が引き出せないのです。
いや本当に……。
改めて読むと一言も……本当に一言も「誘拐犯じゃない!私は無実だ!」という内容は言ってはいないんですよね。1死ドラルクって。
退治される吸血鬼って、何?
「誘拐したら退治される」がわからんとかそんな訳あるかい、て人間の感覚だと思っちゃうんですが、どうも事務所にくる前のドラルクってその辺の基準ガバガバっぽくて……。
退治人の相手は下等吸血鬼や
悪意を持ち人に害なす輩
私のような知的で友好的な高等吸血鬼は
人間社会と共存し得るのだよ
━『吸血鬼すぐ死ぬ 1』2死,p.32
この2死での、いかにも「退治人のこと当然わかっているとも」と言わんばかりの耳障りの良い言葉。あるじゃないですか。これ言ってる本人、1死で人間2人を殺そうとしてましたからね……。
退治人を「これまともに食らったら普通の人間は死ぬぜ」のコンセプトが明確すぎる罠部屋に誘導して「エジキになりたまえ!」した上、その「人間死ぬ罠部屋」にあったのと同型の兵器で攻撃を放つということをやりましたから。彼は。
退治人君
子供を庇って斃死とはドラマチックで良かったなァ
━『吸血鬼すぐ死ぬ 1』1死,p.23
こんな殺害宣言をしつつ。
いや……「友好的」……とは……?
でもドラルクは本気です。
264死なんか事務所に来る前の時制ですが、あのエピソードでもドラルクは「吸血鬼から子供を守った功労者」だったのにラスト、吸血鬼対策課を見た途端に「ゲェー」と無条件に嫌がり逃げてしまうんですよね。
「人を助けたから退治対象から外れる」と咄嗟に判断できなかったんです。
どっちも、よく考えてみないとわかんないんですよ。
何をやったら退治されるのか。どういう者が退治対象でないのか。
この分だと「退治人の相手は下等吸血鬼や悪意を持ち人に害なす輩」って文言もwikiかなんかで仕入れた付け焼き刃って気がします……。
言葉の意味を飲み下せてない。
だから武器を見せられ「この城であのガキに何かあったらただじゃおかねえぞ」と言われても、「退治されたくないから攻撃的な行動を控えよう」なんてこと、咄嗟に思えなかった。
私はコウモリになって先に行くよ
あの小僧の血が残っているうちに間に合うといいな 退治人くん!
━『吸血鬼すぐ死ぬ 1』1死,p.13
むしろ積極的に子供を襲おうとした、退治人を罠に誘導した、人間を殺そうとした……。
「見逃してください」と言いながら「見逃せるわけないこと」をどんどんしまくっていた。
退治人視点、謎すぎます。ドラルクの行動。
2死で「困った市民」を謳うくらいなら、1死でこそ、その立場でいればよかったはずなんです。
「子供に何かあったら困る退治人」なら、じゃあ「何の罪もない市民」である私には気を配らなくていいのか?って思うじゃないですか。あんな脅しされて。
そう思った時点で、「何の罪もない市民」であることが、自分の立場を守るのに重要だと気が付ける。
「何の罪もない状態の私」に攻撃した時点で、退治人は終わりなんだ。
「何の罪もない市民」こそ「退治人の弱点」であり、それだけで退治人に対して強い立場になれる。
それがわかる。退治人の態度に苛立ちを覚えればこそ。
「何の罪もない市民」の立場を捨て、加害者になろうとする利点は一つもありません。
しかしドラルクには、それがわからなかったのです。価値観が違うから。
「脅し」は通じなかった。通じるわけがなかった。
この「通じるわけない」って理屈そのものに、ロナルドは気がついていなかったんですよね。
そのせいで余計に混乱した。
ドラルクにしか起きないこと
ロナルドは、ハナコに対しては「脅し」のコミュニケーションを成功させました。
「撃たれたらただじゃすまないだろう」という危機感と、「回避する為にどうするか」という思考によって、青年やハナコと通じていたからです。
判断も整理されていましたね。
「吸血殺害宣言」をされたから警戒度を上げてハッタリをして。
結果ハナコが青年を守り、ロナルドに反撃しなかったから「危ない吸血鬼ではない」と警戒を取り下げた。
でもそれは、ドラルク相手には上手くいきませんでした。
肝心のところで価値観が違って「脅し」が通じなかったし、「脅しが通じるわけがない」のにも気がついていなかった。
むしろ1死の中では、牽制する度にどんどん「やらかしの危険さ」がエスカレートしていったくらいです。
ドラルクなりに理屈はあったのですが……ロナルドにわかるわけもありません。
そしてその謎のチグハグな反応から、「ドラルクがどんな存在なのか」をロナルドは判断しきれませんでした。
最初から最後まで混乱しきりだった。
いや、間違いなく「人間を殺そうとしてきた」って時点で「敵性吸血鬼」ではあるのですが……。
それをわかりながらロナルドは、混乱を極めていた。
明らかに「こいつ人間殺そうとしたよな今!?」ってちゃんと認識した後ですら……罠部屋とかビーム発射とか、そんな派手なことをやらかした後でさえ。
ロナルドは……何故かドラルクの「退治」をちゃんとしなかったですよね?
「後回し」にしちゃっていました。
ああ、退治というと曖昧かもしれません。要は、「ドラルクの再犯を防ぐような対処」のことです。
反省させるのは無理にしても、麻酔で眠らせるとか、身動きとれないように拘束するとか。
ゼンラニウム(5死)やアラネア(75死)の時はやっていたことをしていない。
「今にも人に攻撃しようとしていた吸血鬼」という、緊急性のある場面、現行犯なのに……。
その現行犯の居城に、まだ市民がいる状態なのに。
なあ、そんなに自由に動ける状態で放置して会話して、いいのか?
本当に妙なんですよ。
ドラルクがおかしなことをするたびに武器を取り出しはするんだけれど、問い詰めることは問い詰めるんだけれど、ドラルクと一緒に自爆でドタバタしたらもう、不思議と…
…リセットしたようにロナルドの「退治意欲」が消えているんです。
彼は「市民を守るため」にやってきたはず、それだけは間違いない。
それなのに、退治するのか、退治しなくていいのか……。その判断が、異様に鈍っていました。
これは。
「ドラルクの能力」としか言いようがないです。
ハハハ…それだ!
誰より弱いお前は
誰の敵にもなり得ない…
まさに無敵の吸血鬼か!
━『吸血鬼すぐ死ぬ 23』278死,p.25
ノースディンの言う通り、「弱いから無敵」なのだと思います。
勿論、クラージィさん(ドラルクの弱さに退治する気持ちを削がれた19世紀の悪魔祓い)と同様に、ロナルドの元来の「素直さ」がなければ成り立たない状況だったとは思いますが。
「印象だけ」の話をするならば。
どうもロナルドにとって、ドラルクは「退治対象扱い」できないらしい。
敵だけど危険では、ない?
ドラルクが1死初手で「即死んで降参」した流れでのことです。
あの時、ロナルドは戦闘態勢を解除しましたよね? 直前に「笑えない冗談だな!」と銃を構え、一気に「戦う気」になっていたのに。
お前ほんとにドラルクか!?
コスプレした観光客とかじゃなくて!?
━『吸血鬼すぐ死ぬ 1』1死,p.8
次の瞬間には、「コイツ誘拐と全く無関係な存在では?」と思っちゃったんですよね。
城に入る前の段階でロナルドは「城の主=誘拐犯?=敵性吸血鬼?」という思考でしたので、
「敵性吸血鬼じゃなさそう→城の主(ドラルク)じゃないのかな?」と発想したのでしょう。
「降参するドラルク」を見て瞬間的に、そう思った。
「退治するやつじゃなくない!?こいつ」と。
元々「相手を見極めよう」というつもりで接していたロナルドにとって……。
勝手に弱って、焦って助けを乞うて、時に泣いて……。
そんなドラルクのような態度は特に……「こいつ危険じゃないのでは??」という気持ちが沸いてしまうものだったのではないかと思います。
退治人の武力に抵抗できない、危険度の低い存在に思える。
本当に無根拠で、なんとなくの感覚です。
危険ぽくない!と思ったところで、1死の中で「こいつは危険なことをしてたぞ!」という事実は何も変わりませんし。ロナルドもわかっちゃいるでしょう、ドラルクが「危険な言動」を見せるたびにしっかり反応していますから。
でも一方で、瞬間瞬間に、「退治すべき」という切迫感が引っ込んでしまう。自爆で大騒ぎした途端に、どうしようもなく。
危険とわかっているのに、その瞬間においては、危険と感じなくなってしまう。
そんなこんなで、「敵だよ!」「退治しなくていいよ!」「敵だよ!」「退治しなくていいよ!」と逆方向の感覚が同時に迫ってきて、ロナルドの振る舞いは……
「敵性吸血鬼」に対するものなのか、「退治しなくていいオジサン」に対するものなのか……
そのどちらもがゴチャ混ぜになり、ぐっちゃぐちゃになっていったのだと思われます。
退治人ロナルドの振る舞い
そもそもロナルドって元々「妙に抜けてるし変にシャイ(カメ谷談/105死)」なのに、「ハンサムで自信満々」な「退治人ロナルド様」として振る舞っていたわけじゃないですか。
シャイな「ただのロナルド」がやらないことを「退治人ロナルド」はやっていたんですよね。
そのモデルは「アニキ」です。ヒヨシそのものではないんだけれども、ロナルドが思う憧れのアニキ。
泣いている依頼人に「任しときな」と豪語して、安心させて、堂々と未知の城へと乗り込んだりする。
ロナルドにとって……
「退治人であること」と
「自分以外のイメージを取り入れて振る舞うこと」って、
切っても切り離せないものなんです。
本当に、最初から。
憧れを目指す、というのが彼が退治人になった動機だからです。
そして退治人全体に言える事ですが、「退治対象」と「市民」に対して、同じ態度をとる事はできません。
市民には安心を与えるべきだし、市民を傷つける輩には容赦してはいけません。
「安全な相手」か「危険な相手」か迷う場合は「危険だったら」というリスクの方をキチンと見る、というのも大事ですね。市民は専門家ではなく、上手に疑えませんから。「牽制」の考え方はそれです。
そのあたり、退治人の具体的な仕事についてはギルドの先輩方から学んできたことでしょう。
さらにさらに、「敵性吸血鬼に対する退治人ロナルド」は、時と場合によって振る舞い方を変えねばなりません。
例えば、下半身透明(50死)を組み伏せる直前には、油断させる為に「ビビってパニックになったフリ」をしましたね。
本当は冷静な退治人モードだったのに、セロリを怖がる時のロナルド(退治人でないロナルド)のリアクションを再現していました。
退治人ロナルドのまま、「ただのロナルド」の振る舞いを一時的に形だけ出したんです。
つまり、こう。
点線部は表面上の一時的な振る舞いで、本気でない。
退治人たるもの、退治に必要ならば最低だろうが格好つかなかろうが、「退治人ロナルド」のイメージと違う「素」の振る舞いだろうが、やる。「退治人ロナルドが、退治人ロナルドらしからぬことをする」っていうシチュエーションも当然視野に入れているって話です。
アラネアとのデート演技(75死)もそうですよね。「アニキは高潔(46死)」という話をしていたロナルドには、仕事中にナンパするのはイメージ違い。「憧れのアニキみたいな退治人」とは言えません。でもやる。必要だからです。
参考資料があるのかどうか
そしてここで注目なのが1点。
ロナルドはアラネアの前で……「仕事中に女性を口説く軽薄な退治人」という「ロナルドからかけ離れたキャラクター」に急に豹変することはできませんでしたよね??
「色仕掛けに応じたしょうもない退治人」ではあったけど、「デート慣れしていないロナルド」が普通に、そこにいた。
そうです。
彼は「退治に必要」とあらば「退治人ロナルドらしからぬこと」「ロナルドが普段しないこと」も全力でやるんですけれども……。
「自分の思考にない、イメージもつかない何か」に、急には成れない。らしい。
彼には「仕事中に女性を口説く男」がどう振る舞うかなんてわからないし、デートで何を話すかも知らない。だから「ロマンチック案内しますぜ」とかいいながら、道中会話も何も、出てこなかったわけです。
アニキはそんなことしない(?)し、自分にもそんな経験はない。
参考にする知識も何もないから。無。
そして「普段と違うことに挑戦する、ただのロナルド」が出てきて、どうにか頑張ることになる。
で……1死の話に戻るんですが。
参考にする知識も何もない場合には、演技していても何も出てこない、とすると……。
序盤の「理不尽に自白を迫っていたロナルド」は、「参考にする知識」があって演じてたってことになりませんかね?
状況としては、素早く接触して反応を見る為にも
「勝手にひとんちのドアを開けて根拠なく疑って、いっそ通報されるくらいにやばいやつ」
をやらなくちゃならなかったんですが……。
この条件じゃアニキっぽくはない。もちろんロナルド自身も普段しないでしょう。
でもあの時のロナルド……。
言葉に詰まったりもしなかったし、ぎこちないってこともなかったですよね。
つまり、モデルがいる。彼の脳内に参考資料があった。
嘘……。ロナルド周りにそんなやばいやついる?
います。
「半田桃」です。
理不尽モデル・フレンズ
<ロナルド>
夜はおじさんのアナログスティックで
プレイしようねってそういう趣味か
<ドラルク>
ド変態はお前だ!!
━『吸血鬼すぐ死ぬ 1』1死,p.9
この「人を勝手に変態に仕立てて理不尽に怒ってくるやつ」が分かりやすいんですが。
<半田>
何だ? 可愛い女の子じゃなくてガッカリしたのか?
下半身に支配された下衆め法が許せば叩き斬るところだ
<ロナルド>
何も言ってねーだろ!!
━『吸血鬼すぐ死ぬ 2』14死,p.28
半田初登場(14死)で、まるきりそのままの理不尽がロナルドに降りかかるんですよね。
あ、これ「半田の真似」なんじゃん。と思ってみると、色々謎が解けるのもあります。
なんかずっと、1死の「アナログスティック」のくだり、「ピュアで安全なロナルドの性癖(おっぱい)」と同じ口から出たと思えなくて不思議に感じてたんですけど。
変態性癖の解像度が高いんじゃなくて、「半田が言いそうなこと」の解像度が高いって考えると、すんなり腑に落ちます。
顔を近づけて「近い」ってなってるのも、半田にされてきた威圧をドラルクにもやったんだなあ、という感じです。(『OKわかった 顔が近い』/1死)
さらに14死の中では、「隠しだてをしてみろ 殺すぞ」「マズイこと喋ったらブチ殺すからな」と半田とロナルドが連続でドラルクに凄むシーンもあります。この構図もおそろい。
おそらくは……普段の自分はしない「理不尽でやばくて通報されるけどギリギリ捕まらない感じ」を作ろうと思った時、彼の脳内で「半田」が参照されたのでしょう。
「半田っぽくしよう!」と彼の中で言語化された意識があったかどうかはわかんないですが……。
やばいやつというと、こんなかんじか、と。
とにかくロナルドは退治の場面に応じて、「こういう振る舞いが必要だ!」というのを「自分」や「自分の周囲」のイメージから咄嗟に引っ張ってきて再現する、ってことをやっているようなんですね。
で、1死ドラルクがやらかし始めてから、その参照システムが、バグったんです。
なんといっても、
「敵性吸血鬼で退治しなくてよくて、弱くてアホで危険じゃないけど普通に悪意があるし危険」
という意味不明存在に対してどうしたらいいかなんて。
彼の中に「参考にできるもの」がない、どころか、「どういうものを参考にしたらいいか」もわかりませんので。
「デート時の会話」は脳内検索しても0件ですが、それどころではない。
適切な検索ワードがわからない状態ですね。
「退治人ロナルド様」の「ただじゃおかねぇ」の警告も全然通じないし。
警告を聞かないなら退治……と思ったのに「その気がなくなる」。
けどそんな反抗的な相手にハッタリを撤回するわけにはいかないのはわかっている……。わかってはいる。
でも、どうしたら……どうしたら。
「よし! お前あのガキにViiとかあげろ!」とか、もうどういう立場で物を言ってるのか謎ですもんね。
「協力してもらえるくらい無害な相手」と思っているんだったら所有物を奪うような言い方は雑すぎるし、少年を襲うようなことを言っていた敵性吸血鬼として見ると、協力できると思わないのが前提でしょうし……。
後これちょっとカメ谷っぽいんだよな……。
威圧するでもなく、堂々と真面目に狂った提案してくる感じが……。
<カメ谷>
退治人ロナルドさん!
ぜひこの人形に呪われたりしてみてください
<ロナルド>
うおおお嫌だ
テメーがやれぇえええ
<カメ谷>
! 確かに記者自身が呪われた方が面白そうですね
カメラ頼みます 私に異常が起きたら動画も撮って
━『吸血鬼すぐ死ぬ 5』50死,p.35
50死のこれです。
頭の上に電球がパッってついて、とってもキリッと仕事の顔……という。
「お前がやれ!」的切り返しに1死ロナルドも50死カメ谷もすごく素直に検討するし。横暴なのに平等。
そっか、「敵だけど危険に思えないドラルク」に対して、「友達だけど危険なカメ谷」。
状況的に丁度……丁度……いや別に丁度よくないよ……。カメ谷になってどうするんだココで。
絶対におかしいんですけど、もうね……「退治すべきときに退治する気にならない」って時点でもう狂ってるので、どうにもならないですよ。
今この瞬間、「どんなロナルド」になるべきかわからない。
当初の「やばいやつで在ろう」というエネルギーだけが、残ったまま。
退治人ロナルドは「退治」を何故か後回しにし、カメ谷のごとくvii提供を閃き、シャイなロナルドが自伝を持ち出し、半田のごとく強引に押し付けて、ちょろいロナルドが作戦に耳を貸し、退治人ロナルドが問い詰めて、また退治を忘却し、ただのロナルドはqsq破損に大いに焦り、ロナルド様が少年を庇い。城爆発を見つめながら、ただのロナルドは憐れんで気遣い、慰めた。
自分の中身をひっくり返して、使えるのか使えないのかわからないまま、「退治する気が消え失せる」という謎現象に抗いつつ……。
とりあえず「強気」であろうとは、したのでしょうね。ドラルクに謝りはしなかった、ギリギリ。
パニックでした。ただただ。
でもパニックだったからこそ、「他の誰に対してもしないような態度」が、ロナルドから出てきた。
「ただのロナルド」だったら出ない押しの強さで、「ロナルド様」ならやらないことを、「やばいやつエネルギー」に従うままに、繰り出した。
こうやって生まれたんです。
「ハッタリ」と「牽制」の延長のような……
「退治人ロナルド」としての「退治人ロナルドらしくない振る舞い」。
ドラルクに対してのみ発揮される、「対ドラルク用ロナルド」とでも呼ぶべきものが。
発生したのです。あの夜に、突如。
だから敢えていいましょう。
ロナルドは、一夜でドラルクに狂わされたのだと。
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