【※ネタバレ注意!漫画『吸血鬼すぐ死ぬ』単行本収録分/公式ファンブック1・2/作者Twitter発信情報】
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失敗と意地っぱり
【ロナルド】ドラルクに対しては意地っぱりの退治人。突然、家に入ってきたオッサン相手に当然ちゃ当然。
━『吸血鬼すぐ死ぬ 12』140死(柱情報),p.160
この柱情報の再解釈をしつつ、整理してみましょう。
「突然、家に入ってきたオッサン」とは2死の出来事です。
だから「1死のロナルドの態度」の理由にはならない。
1死の「当たりの強さ」には、2死以降とは違う理由があったということ……。
まあそれはそうですよね。
1死の時点ではドラルクがどんな人物かも知らないんですし……知らない人に向かっていきなり当たりが強いのは、相手が原因の態度ではありません。
ロナルドは、誰であってもそうする予定だったのです。
その行動は城の主の視点、明らかに「やばいやつ」でしたが、それにはちゃんと理由があった。「市民を守るための理由」が。
ハッタリだった。牽制だった。
それは「退治人の仕事」に必要なもので、吸対でも咎めることはできない。
だから、問題なのはその先……。
自分の行動を説明する機会がなかったことです。
ハッタリも牽制も、撤回できなかったことです。
おどかして悪かったな 空砲だよ
━『吸血鬼すぐ死ぬ 1』3死,p.56
3死ではきちんと出来ていた「ちゃんと意図があったんだ」という開示が、1死ではできていなかった。
これでは勘違いも生まれます。
いくらハッタリで牽制で、「敢えて」の行動だと言っても、それが「初対面の行動」で、ずっと撤回されなかったら「本気ではなかった」なんて相手は思わないでしょう。
つまりそれが第1死を初めて読む読者の視点であり、ドラルクが見てきたロナルドなんです。
退治人の仕事に「ハッタリ」や「小芝居」が珍しくないなんて知るはずがないし、退治人の尋問の対する理想的な受け答えなんてわからないし、吸血鬼が退治人を通報するなんて思いつかないし、現行犯ですぐさま捕縛されなかったのを「おかしい」なんて気が付けないし、ロナルドが「今までにない行動をしていた」なんて思い及ばない。彼が本当はピュアで人の良い青年だなんて、そんなこと言われても。
吸死世界の人間社会のことも、退治人のことも、勿論ロナルドのことも……ドラルクは、何にも知りません。
読者は1死で初めて吸死世界に出会うんですけど、ドラルクも同じようなもんなんですよね。
ずっと城の中にいたから。
そして、読者が「これはギャグ漫画だ」と思って安心して読んでいるのと同じくらいの軽さで、ドラルクは「死」や「負傷」について全く深刻さを感じていません。
だから、「攫われた子供」と聞いてもロナルドがピリピリしている意味がわからないし、そんな状況で子供を襲おうとしたり、退治人を罠にかけ攻撃しようとしたことがどんなに「洒落にならない」か全然わからない。
だから事務所まで押しかけ、何ともない顔で「自分は友好的な吸血鬼」だと主張できる。
1死で、ロナルドは「終わった」と思いました。
「やばいやつ風のハッタリ」を撤回する具体的なキッカケを掴めないまま、ドラルクは朝日で死んで。
終わった。ムチャクチャな相手に、ムチャクチャな対応をしたまま。
どういうことだかわからないまま。
何もかも予想外で、狂ったままとんでもない事になって、何にもうまくいかなかった一夜ですよ。
ロナルドはその時の「狂った自分」ごと封印しようとしました。箱詰めし、記憶の奥底に沈めて、もう二度と開くまいと思いました。
そんな気持ちも知らずにドラルクは、封印を内側から気軽にババンと破って再登場したのです。
そのドラルクと一緒に、ロナルド側の「狂った自分」もババンと出てきてしまったんでしょう。
こうして考えると、ロナルドの方こそ「変身失敗」していたのかもしれませんね。
変身とは吸血鬼が持つ超自然的な能力の中でも複雑なもの
失敗して変なのになったり戻れなくなったりし得るものだ
━『吸血鬼すぐ死ぬ 1』8死,p.113
何か別のものに一時的に変わろうとしただけなのに、「失敗して変なのになったり戻れなくなったり」してしまったんですから。
ドラルクが変身失敗した瞬間に、ロナルドも変身失敗したのです。警告を無視して挑発してきた吸血鬼を目の前に……あの瞬間にただドラルクをふん捕まえておけば、「退治人ロナルドとしてのあるべき姿」になれたのに。
すべき退治をし損ねて、ロナルドは「やばいやつ風ハッタリを延長した狂ったロナルド」から戻れなくなった。それを封印することすら出来なかった。ドラルクが「突然、家に入ってきた」為に。
テメーみてーなのぶっ殺すのが仕事ですけど!?
━『吸血鬼すぐ死ぬ 1』2死,p.32
2死のロナルドは、上記のように……かなり言葉や振る舞いが「危険」でした。印象として過激だったし、怖いことも言っていたと思います。ドラルクに再会した初っ端から。
でもそういう「言葉が過ぎる部分」を解きほぐして考えてみると、ドラルクって「深く考えずリスクも顧みずに人間に致死の攻撃をしてきてしまうような相手」で……。大したことだと思っていないなら、同じ事を繰り返しかねないし。
それが元気に町にやってきてしまったことを厄介に感じるのも、退治対象とするのも警戒するのも牽制するのも、間違っちゃいないんですよね。いくら弱いとはいえ、トラブルの元です。
ロナルドの意図は「市民を傷つけようとする輩に容赦しないこと」であり、それは退治人として必要な姿勢でしょう。
ただ、言葉選びや振る舞いとしてみるとどうも強引で、理不尽で、ぶっ壊れている感じがしてしまう。2死以降を見ていると。
意図は「おかしくない」のに……ただ、出力された言動が狂気。
自分の振る舞いが自分でコントロールできないのです。
結局のところ、ロナルド自身が一番「ドラルクに対してどうしてこうなるのか」わからない。
<ロナルド>
自分の能力がコントロールできねぇなんてあるのかよ?
<ドラルク>
いや珍しい話でもないぞ
━『吸血鬼すぐ死ぬ 1』8死,p.160
変身失敗のようなものだから、です。
具体的なイメージを描けないと失敗してしまう変身と同じく、妙な状況で「退治人としてどうしたらいいか」に明確に答えがでないまま生じてしまったのが「あの夜のロナルド」だから……。
わからないから、こうなっている節がある。
しかも、ただでさえ訳わからんのに、同居が始まっちゃったら「仕事」以外の日常でも接することになります。
どれだけ「日常」であろうと結局「監督対象の吸血鬼」であり警戒は解けないんですけど、「共に暮らす身近な相手」にもなってくる。
『勝手をさせたら不味い監督対象なので目を光らせるが退治はコンビ相手で不可、弱くてアホで危険じゃないけど普通に悪意があるし危険だが同居人』
ですよ。同居開始後のドラルクの存在って。
どうしたらいいんですか?
ロナルドは友達がダメージ受けないようにファンレターを隠すような(14死)気遣い屋の青年なんですよ!?
警戒すべき相手(監督対象)と気遣いする相手(同居人)に同時になっちゃったよ。
ロナルドの判断基準なら「仕事の顔」を優先するしかないんでしょうが、その「仕事の顔」があの狂った1死の延長ですからね……。
参考資料がうまく引き出せなくて絶対「半田風」も「カメ谷風」も「退治人ロナルド」も「ただのロナルド」も脈絡無視で全部出てきちゃいますよ。
でも全部出ちゃっても、やめる選択肢はない。
再会直後から1死と同じような態度で接してしまって撤回できなかったし、「仕事の顔」しないわけにはいかない。それが退治人なので。ロナルドは、退治人でいたいので。
ということでロナルドはわかっていないでしょうが、たぶんこんな感じです↑
容赦ない割に、実質として優しい部分がチラつくのも、1死と同じく「相手の立場で自分の振る舞いを決める」というシステムがバグってるせい。
冷蔵庫開けんな!と怒鳴りながら、調整牛乳苦手と聞いて(3死)特選牛乳を買っておいてしまうとか(4死)。
ニンニクチューブで攻撃しながら(6死)、退治道具であろう殺鬼剤やニンニクを、鍵付きのクローゼットや床下収納にしまって隔離してくれるとか(13死)。
キレて目潰しもするんだけれども、ドラルクが落ちて危なかった洗濯機(23死)を、買い替える時ドラム式にするとか……(42死)。
ハナコの場合は、銃を向けながら優しい態度になったりはしませんでしたよね。空砲であることは隠して脅かすことに徹していたし、一区切り判断が出来てから「優しい態度」に切り替えていました。
アラネアに対する演技でも、「罠にかかってデートしようとする退治人」をやめたタイミングは、キチンと仲間の所に誘導して戦闘モードに切り替えた時。それまではあくまでも、油断させる態度を貫きます。
この点、「対ドラルク用ロナルド」は「緩み」と「締め」の切り替えのタイミングが明確ではありません。強気な態度の裏側で頑なに隠すでもない優しさが同時に発揮されるわけです。
もしかすると「隠せていないレベルで優しさが出てしまう」からこそ、「強気で行かなきゃ」の圧が過剰になったところはあるのかもしれませんね……。砂糖の甘味を塩で消そうとするみたいに。
と、そうやって続けていくうちに、……結局この「わけわからんがとにかく強気で接しようとする態度」がコミュニケーションの癖として染み付いてしまった、と。
状態異常:意地っぱり
ロナルドの「当たりの強さ」は2死から始まったわけではありません。けれど。
最初は、ドラルクだからやったことではないけれど。
相手がドラルクだったから、予定が狂って、2死以降も延長されてしまって、ずっと止められないでいて……。
もう警戒なんかしていないのに、コミュニケーションの形だけ残ったのです。
失敗した変身が、変に固着してしまったかのように。
「ドラルクに対しては意地っぱり」の正体って、これのことじゃないかと思うんですよね。
ロナルドは本来、意地を張りにくい精神構造をしています。
図解にも描きましたが、「ロナルド自身の感情」は「退治人としての習慣」よりも優先度が低い。
無理しているというよりは、「退治人でありたい」という自分の気持ちが優先されるからです。
強すぎる一つの想いによって、「退治人としての自分」が強く表に出てくる。
自分の些細な感情が出にくくなっている。
退治人になる以前からも似たような精神構造があって……。
【ロナルド】
小学校の音楽の時間、カスタネットで隣のやつの腹を挟んだらそれがクラス中に大流行、結果音楽の先生が職員室に帰ってしまったのがトラウマ。
━『吸血鬼すぐ死ぬ 22』266死柱情報,p.164
小学生の頃からそう。自分のちょっとした好奇心、些細な感情が、結果的に誰かの思いや行動を台無しにしたかと思うと、とてつもなくショックを受けるんです。
自分勝手にしすぎると返って自分で傷つくタイプなんですね、ロナルドは。だから、「他者に影響のある場面」では「自分の意地」が出てきづらいのでしょう。
退治人を何がなんでも目指したように……兄にも逆らう強い「意地」が本来彼にはあるけど、それは滅多にコミュニケーションとして表に出てこない。
だから、「延々なんとなく意地っぱり」なんてコミュニケーションは、自然と生じにくいんです。
どう考えても相手に非がある場合には普通に怒るし黙ってるタイプじゃないですが……。
でも、自分が悪いと思ったら謝っちゃうじゃないですか、ロナルドは。
314死ロナルド家出回とかまさにそういう感じですよね、ドラルク以外に対してはめちゃめちゃすぐ謝っていた。
そこで自分の感情だけ……自分の「なんかムカつく」だけを根拠にした意地をはれるのって、彼としては状態異常って気がします。
この状態異常のヤバさは、「正常なシステム」の構造に逆らってないところでして…….。
下半身透明の前で「セロリこわい」の慌てぶりを再現したのと、構造自体は一緒なんですよね。
その「再現」で「フリ」だったものが延長されて、形骸化していくことで段々本当になっていって、結果的に「自分の感情」を強めに出してしまうシステムに変わっちゃったというか。
気がついたら反転してるんですよ……。
トリックアートか??
発端が「退治人としての一時的な振る舞い」だったからこそ、「普通はしないコミュニケーション」から始まって、ドラルクだったからそれが通じなくて、通じなかったからパニックが起きて、撤回する機会を失って。
変身失敗したように、「狂ったコミュニケーション」が定着して。
そんな特殊な事情がなければ、生じようがない。
ハッタリやフェイントは前からやっていたけど……それがまさか延々続いて、「普通」になるなんて、まさか思わない。でもこうなっちゃった。
こんなんなっちゃった。
やっぱり「狂わされた」としか言いようがない気がします。
だから「ドラルクに対しては」と特筆して書かれるのでしょう。
ただ「突然、家に入ってきた」だけでは、こうはならなかった。ドラルクだったから。ドラルクに対してだから。
回答まとめ
えー、マロ本文の質問部分を改めて見ます。
1話のロナルドくんほんとに対吸血鬼への倫理観バグってないか…?と思い、もし気が向きましたらざらめさんはその辺りどうお考えでしょうか、聞いてみたいです
「1話(1死)のロナルドについて」という話題でしたが……私としては、マロ文に含まれていた
「1死でロナルドが理不尽だったこと」
「ドラルクに対しては意地っぱりなこと」
「容赦のない一方で優しさがあること」
この3つは全て繋がった連鎖的なものと考えているので、一気に全部説明してみました。
ポイントをまとめておくと以下です。
・3死は「1死でロナルドがやりたかったこと」の投影として読める
↓
・ロナルドは敢えて「通報されかねないが、牽制とされる範囲」の中で相手の反応を見ていた
・ロナルドの意図は「文化と価値観」が違いすぎるドラルクには全く通じず、失敗した
・ドラルクの「退治する気が消え失せる振る舞い」に当てられて、ロナルド側の判断能力も混乱
・予定していた対処ができなくなったロナルドが混乱の末「今までにない対応」を生み出す
・1死でドラルクが死んで終わった、と思いきや、2死に続く
↓
・結局「牽制」も「ハッタリ」も撤回できぬまま、同居に突入
・「同居人」となったため自然と「気遣い」の対象に
・しかし1死の言動があるため「退治人ロナルド」としては警戒を解くわけにはいかない
・最初のハッタリと混乱が延長、基本的に当たりが強くなる
・ドラルクが弱すぎる
・そのうち警戒心もなくなって形骸化する
↓
・形骸化した「強気で接する癖」が「意地っぱり」の正体?
こうですかね!
だから私の考えとしては「対吸血鬼への倫理観」というより、最初はちゃんと意図があった「敢えて」のものが、ドラルクに対してだけ狂ってこじれたんだろうな、って感じです。
ドラルクに無闇に厳しい一方でハナコへの対応は寛容でしたしね。
半田(ダンピール)との友人関係もありますし、「吸血鬼に対して」より「ドラルクに対して」の方が理屈として私は納得しやすかったです。
ちなみに、初期からロナルドの過激さが和らいだ原因。色々あるとは思うのですが、
ひとつには同居人としての情が強くなってきたことの表れなのかなー、と想像しています。
習慣として、癖のように当然に発揮していた「優しさ」に具体的な動機ができてきたというか……。
それと同時に、「当たりの強さ」の動機はどんどん薄れていく自覚があって、抑え目になったのかな?と。
なので、「同居を続けたい」って気持ちに自覚が出てくるイベントとかは、かなり「キッカケ」として強いんじゃないかと感じます。もちろんグッマザとかもそうです。
zara.hateblo.jp
盛りだくさんすぎる
はい。
ここまでつらつらと「1死ロナルドは最初意図があって、でも予定が狂ってこんなんなっちゃった」って話をしてきてるんですが、1死……物語の始まりだけあって語りたいことだらけすぎる……。ドラルクの話とかだいぶ省いちゃいましたし。いや
でもこの記事の主題って「ロナルドの思考どうなっとんねん」ってことですからね。
そもそもこの時点で「あれもこれも……いやこの話必要か今〜??」って記事がウルトラ難産になってしまったので、
この話は一旦一区切りとします!!
マロ主さんに、そして記事を読んでくださった皆さんにとって、多少なりと考えを進める助けになれば幸いです。
おわり。完(ヌン)!
****追記(2024/6/11)*****
『省いちゃったドラルクの話』、やっとまとめました。
ご興味あれば是非!↓↓
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