考察キッチン

KOUSATSU-KITCHEN

【吸死考】オーブンいつ買ったか問題

※この記事は週刊少年チャンピオンで連載中の漫画『吸血鬼すぐ死ぬ』(著:盆ノ木至)の考察記事であり当該作のネタバレを多分に含みます。
※最新コミックスまでの内容の他、原作者・公式アカウントツイッターで過去発信された情報に触れる可能性があります。ご注意ください。


かつて、ロナルド吸血鬼退治事務所(兼自宅)には、オーブンが存在しなかったことをご存知だろうか。



ラルクは13死という早い段階で事務所の台所で料理をするようになり、1期アニメエピソードにもなった吸血猫ボサツ登場回(15死)でクッキーを焼いたりもしているが、実を言うとこの段階でオーブンは無い。クッキーはフライパンで作っていた。



フライパン式クッキーの情報は↑にもある通りコミックス1巻発売記念のエア握手会(原作者盆ノ木至先生のtwitter上で行われる読者との交流イベント)で明かされたものだ。

エア握手会はアカジャ(アカウントジャック)の前身に当たるイベントで、1巻発売当時から単行本が発売するごとに、発売日後しばらくの期間に渡って開催されている。(ややこしい為、以降はエア握手会も含め『アカジャ』と呼称する。)

そのアカジャにて、初期しばらくドラルクが「オーブン欲しいアピール」を行っていたのである。

得意料理を質問されれば「オーブンがないから作れない」と残念がり、ドラルクさんのケーキが食べたい…とねだられれば快諾しつつ「ΘゞΘレンジとフライパンで製菓は限度が」と一言付け加えたり。

端的に言って不満もろだしであった。

チャンピオン本誌の柱キャラ紹介*1でも56死にて

【ドラルク】臨時収入は趣味に使う。ゲームソフトか、オーブンを買うか……。

週刊少年チャンピオン2016年41号(後にコミックス5巻に収録)


などと書かれたりもした。

これだけしつこく主張するくらいなのだから、そのうちに「オーブンを買う回」なるものが描かれるのかもなと、そう思うのが読者心というものである。

オーブンを欲しい欲しいと暴れるドラルクを尻目に「買うかボケ」と退治に出ようとするロナルドが、ダチョウに襲われたりポールダンスでゴリラと心を通わせたりしつつ、占い師のセールストークに惑わされて最終的にオーブンを買う羽目になるみたいな、そんな回。ありそう。しかしながら、実際はそんな回は存在しない。ウホ……。

そして86死『床下より愛をこめて』にて、オーブンでクッキーを焼く様子がサラリと描写され、いつのまにか事務所居住区キッチンにオーブンが導入されていると明らかになったのである。

エ!?
いつ!?!?

読者は慄いた。半田桃式回転窓割り屋外脱出を繰り出したりした。



これを、『オーブンいつ買ったか問題』と呼ぶ。



アカジャ世界と本編世界の関係

この記事でのアカジャ登場キャラへの認識を一応共有しておく。ここでは、

①アカジャのキャラは、読者と交流する以上は本編世界とは別の存在。
②アカジャのキャラは、その時点での最新の本編世界(本誌時間軸)の記憶を持っている。

という感じで見ていく。

つまり、本編世界(本誌時間軸)でオーブンを買ったら、twitter上でも「オーブンが事務所にある」という前提でキャラが喋るんじゃないかな?ということだ。


愚痴らなくなった?

さて、前述したようにドラルクは、オーブンが無いながらも工夫してクッキーやケーキを作っていた。

そして同時に、オーブンが無いことを毎度嘆いていた。

86死でオーブンの存在そのものが確定するまでの期間で、ドラルクが最後に「オーブンがない現状」を台詞に滲ませたのは4巻アカジャ1日目の以下ツイートである。


これ以降、ドラルクはクッキーを作ってもケーキを作ってもオーブンの話はしなくなる。

*2
そして時は流れ、ついに本誌に86死が掲載され、あたかも「以前からここにありましたが?」みたいな自然さでオーブンが描かれることになる。

つまりこうだ。

* 4巻アカジャ2016/11/8『フライパンでも案外やれるものだ』→オーブンが無い
    ↓
* 明確な言及なし謎期間(約半年)
    ↓
* 86死(2017/5/11)本編に登場→オーブンがある

オーブンでないと作れないもの

ラルクはクッキー、ケーキ、ピザ等をフライパンで工夫して作っていたが、そんな彼が「オーブンがないと作れない!」と嘆いていたものがひとつある。

ローストチキンだ。

2巻のアカジャでも得意料理として答えていて、作れないのを悔しがっているし、

私の得意料理は御祖父様直伝の詰め物をしたローストチキンだよ!
でもオーブンが無いから事務所で作れなくて残念だ…
#吸血鬼すぐ死ぬ2巻発売イエーイ

━@bonnoki / 2016-05-07 22:29:42

3巻のアカジャでも同じことを言っている。

私の得意料理は詰め物をしたローストチキンなのだが、事務所にはオーブンが無いので作れないのだ…料理は私の趣味なのに!
もっと凝ったものが作りたいよ全くΘゞΘ
#吸血鬼すぐ死ぬ3巻発売うれしい

━@bonnoki / 2016-07-09 23:39:43


なんなら2回も言っている。

事務所にオーブンがないとのことでしたが、もしオーブンがあったら他にどんなお料理を作りたいと思っていますか?
━━━━━━━━━━━━━━

ΘゝΘローストチキンが作りたいねえ、私の得意料理なんだよ!あとケーキやクッキーももっとうまく作れるようになるし…
ヒナイチ:!
ヒナイチ:オーブンを買えロナルド!!
ロナルド:餌付けされすぎだろお前
#吸血鬼すぐ死ぬ3巻発売うれしい

━@bonnoki / 2016-08-18 21:25:15

しかし、思い出して欲しい。ローストチキン……本編で見覚えがないだろうか。しかも、オーブンお披露目の第86死よりも前に。


そうだ……アレ……。クリスマス
ローストチキンといえば、クリスマス。


第70死『何が聖夜だ味噌汁飲んで寝るわ』だ。

イベント回、しかもクリスマス関連エピソードにおいては初回とあって、印象に残りやすい回かもしれない。

この回の最終コマ前方にクリスマスのご馳走が描かれているのだが…。


ある。
ローストチキンが。


このローストチキン、足に被せる飾り(マンシェット)まで付いていて異様に完成度が高く、何処からか買ってきたのかという錯覚を覚えてしまいかねないのだが、しかし……。
これは……あのドラルクが、得意料理としていの一番に挙げていて、オーブンさえあれば作れるのにと散々嘆き続けたあの『ローストチキン』なのである。
「オーブンがあったら何が作りたい?」という質問に一番に答えた、『ローストチキン』なのだ。


これ、あるでしょ、オーブン。

ラルク視点での料理モチベーション的な意味でも、原作者視点での前もって丁寧に仕込こんだ文脈としても、


「ローストチキンが食卓に出てくる」=「オーブンが事務所に導入された」


ということだ。おそらく。

あんだけ自分で作りたがっていた得意メニューなのに、せっかくのパーティーでわざわざ既製品をメインに据えるドラルク、というのも想像しにくいし。
(オーブンが無いなら無いで、ローストチキン以外のメニューにする気がする……)
作者としても前もって「ローストチキンはオーブンがないとできない!」と何度も発信しているわけだ。最初から決定済みの特別扱いなのだから、描く時は相当に意識するものと思われる。


しかもローストチキンはドラルクの祖父直伝のメニューで、その祖父の妻・ミナらしき人物が、「あの男と一緒に作った」と称したメニューでもある。

ホワイトデーのお返しとしてこのメッセージがあるわけだが、どうやらわざわざお返しとして準備した訳ではないようなので、普段から「一緒に」つくっていたのだろうな。ローストチキンを。
いやこれは……。ローストチキン is トテモ・スゴク・メチャ重要に間違いなかろう。やはり、事務所の食事として画面に入れ込むとしたらドラルクの手作りに思える。



そうと仮定すると、『オーブンを買ったはずの空白謎期間』の範囲が一気に狭まる。やったね。ウホ!


『フライパンでも案外やれるものだ』2016/11/8の翌日
    ↓
第70死『何が聖夜だ味噌汁飲んで寝るわ』2016/12/15の前日

空白は一ヶ月間弱。この間に何かしらキッカケがあってオーブンがやってきたに違いない。

何があったっけ

さて、2016/11/9~2016/12/14というと本誌連載では第65死~第69死の計5話が掲載されている。
概要は以下。

  • 第65死『謎解きはブラジャーのあとで』
       吸対回。隊長ヒヨシがブラジャーフィーバー疑惑をかけられる。
  • 第66死『平成迷惑な吸血鬼合戦シンヨコ』
       VRCから○ンタマ型の吸血鬼が逃げる。ジョン教誕生。
  • 第67死『大脱走VRC(Vampire Research Center)』
       VRCからナギリが逃げる。プチYデミック。
  • 第68死『かまってジョン ヌッヌン!』
       ドラルクが留守。ジョンと遊びたいロナルドくん。
  • 第69死 『お修羅場行進曲』
       オータム執筆コンベアー。天ぷらにされる。

残念ながら直接オーブンを買うキッカケになるようなエピソードは見当たらない。なんなら、67死ナギリ回は事務所メンバーも出てこない。台所が爆発して家電全滅とかだったらな。ついでに買ったりしそうなのにな。こういう時に限って爆発してないんだから……ヤレヤレ。

そして第68死ではドラルクはオータムの編集長と一緒にゲームソフトを買いに秋葉原にいってしまい、さらにはバスケットゴールという要らんお土産まで買ってきている。壊れたqsqの補填をオータムの景品に頼ったり(43死)、qs4の買い替えも限界(113死)まで騙し騙し先延ばしにしていたドラルクの経済事情からも察せることだが、貯金等は特に考えず行き当たりばったりに浪費してきた雰囲気がプンプンである。

【ドラルク】臨時収入は趣味に使う。ゲームソフトか、オーブンを買うか……。

━コミックス5巻/159p

お金があったらゲームか、オーブンか。そんなことを考えていたドラルクだが、この様子だと70死までにオーブンを自分で買ったという説は無理がありそうだ……。完全にゲームやその場の物欲を優先している。





待て。

臨時収入。

貴様…今、『臨時収入』と言ったか……?


そうか、有るじゃないか。オーブンを買うキッカケ


【ロナルド】臨時収入は友達と遊ぶのに使いたい。

━コミックス5巻/159p(柱情報:第56死)

ロナルドは、臨時収入を「友達と遊ぶ」、つまり、友達と一緒に楽しめるものに使いたいと考えている。
そしてこの時(第65死~第69死)のロナルドが一番「一緒に遊びたい、楽しみたい」と思っている存在は、ジョンである。

なにしろ第68死は、「ドラルクがいなくなってジョンとふたりきりになったロナルドが、ジョンと楽しく遊びたくて必死になる」という話だ。
『ドラ公の邪魔無しにジョンと楽しく遊べるチャンスじゃん!!(コミックス6巻/95p)』というドスレートなモノローグまである。
ロナルドはジョンと遊びたいのだ。楽しく。一緒に。


そしてジョンが楽しく感じることと言えば……。

【ジョン】臨時収入があったら、おいしいケーキとか食べに行きたい。

━コミックス5巻/159p(柱情報:第56死)


""食""だ。


ジョンにとって一番美味しいのは『ドラルクの作る料理とお菓子』だ。第56死の柱は臨時収入があったら、というテーマで柱情報が統一されているので外食ということになったのだろうが、一番はご主人の作るもの


「オーブンがあれば、もっと美味しいドラルク様の料理(お菓子)が食べられる!」となったら、ジョンはオーブンを欲しがる。確実に。

”食”はロナルドも一緒にジョンと楽しめるものだ。
唯一の引っ掛かりはドラルクが使うものであってロナルドは使い方すらよく分からない、というところだが……
そこは、第68死でロナルドはジョンと楽しく遊ぼうと四苦八苦した末、結局「ジョンが楽しいこと」というのはどうしてもドラルクに結びついているのを「敵わねぇなチクショウ…」と認めているわけだから、そこまで意地も張りにくい。ロナルドは既に悟っている。

これ……””買う””わね……?


あとは『臨時収入』とやらが有れば、というところだが、なんとまあ、丁度良いことに、


在る。


原稿料だ。
ロナ戦3巻の。

第69死 『お修羅場行進曲』はロナルドがオータム執筆室のコンベアーに乗ってロナ戦3巻の原稿を書き上げる回ではないか。

原稿料の相場は作家(の実力)によって変わるが、ロナルドは既に1巻と2巻の販売実績があるのでそうそう激安な設定にはされないだろう。そして、ロナ戦は本編にも出てくる通り、結構な厚みの本だ。文量もその分ある。ならば原稿料もその分ある。
それくらいの額が入る、もしくは入る見込みがハッキリとするのならば……。


””買う””わね。


つまりこうだ

ロナルド、「ジョンの楽しみ=ドラルク関連」を悟る。(68死)

ロナルド、ロナ戦3巻脱稿。原稿料が確定し財布の紐が緩む。(69死)

余裕あるお金は友達と遊ぶのに使いたい!の精神でジョンに希望を聞く。(56死柱)

ジョンは「美味しいもの!」と言う(第56死柱)。

ラルク、「オーブンがあればもっと美味しいものがつくれる!」と主張。( 3巻アカジャ )

ジョン、オーブンにノリ気。(ドラルクの作ったものが一番美味しい)

ロナルド、先日悟った事もあり(ジョン関連のことで張り合っても勝てない)、ジョンの希望を叶えてオーブンを購入。



こう……じゃないかな!?

可能性だけを語ろうと思えば他にもいくらでも解釈はできるけれども、本編や柱やアカジャで発信されていたものをヒントとして前提に置いた最小手はこう。

と思う。筆者は。


その場合には後のエピソードの解釈がどうなるか。も、話したいが。
でもそれは『オーブンいつ買ったか問題』とはまた違う話題だから別記事になることだろう。


ウホン…ホッホ…終電ゴッホ……。*3


zara.hateblo.jp




*1: 掲載ページ端の余白スペースに書かれるキャラクターのプチ情報。

*2:5巻アカジャではドラウスが事務所にやってきて一緒に料理をする、という流れがある。その際(@bonnoki / 2017-03-11 22:27:00)『マ…ジョンと赤毛のお嬢さん(とポール)にフライパン・ピザを振る舞ってきた。フフフ…。キッチンが地獄のように狭いのはどうにかするべきだが!マルスケを蹴っ飛ばすところだったぞ!』という発言があるのだが、オーブン導入後も餅をフライパンで焼いてみたり(@bonnoki / 2017-12-27 17:17:25)、調理法のバリエーションとして扱っているドラルクの様子を鑑みると「フライパンでピザを作っている」というだけでは「オーブンがない」という根拠にするには些か薄弱という判断に至った。尚、5巻の書店購入特典には「ドラウスとドラルクがコンロの前に並んでフライパンで調理する」という図がある(『吸血鬼すぐ死ぬ 公式ファンブック 週刊バンパイアハンター特別増刊号』-94p)関係上、イラストから2人の調理風景を想像することができるメニューとして「フライパン・ピザ」が選ばれたのでは?という解釈もできる。

*3: 205死。ボボンレスさんがしょんぼりして帰ろうとしたときの猿語。