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【 #ツイステ考察 】ゴーストマリッジはリトル・マーメイドの反転?

※性質上、文章内に『リトル・マーメイド』のネタバレがふんだんに含まれます。系列のシリーズの内容も致命的ではありませんが若干バレあります。ご注意ください

結婚式の妨害


『ゴーストマリッジ〜運命のプロポーズ〜』は、イデアとゴーストの結婚式を妨害する、というのが話の軸だ。まずココ。この「結婚式を妨害する」というコンセプトがまず、リトル・マーメイドっぽい。


ご存知の通りリトマは『人魚姫』を土台にしているお話なので、王子様とキスするという課題が主人公アリエルに課せられる。しかし、なんやかんやでアリエル以外の女性とエリック王子が結婚式を挙げようとしてしまい、カモメのスカットル(アリエルの味方)たちが、時間を稼ぐために全力で結婚式を妨害するのである。

ただ、「結婚式の妨害」という行動は同じなのに、その目的は「キスさせること」ではなく、「キスさせないこと」。全く逆になっている。
それ以外にも所々リトマと重なる要素があるのだが、やはり反転し引用されている。ひとまず例として、わかりやすいものをいくつか挙げておく。

『リトル・マーメイド』からの反転引用


【1】契約とキス
リトマ→「契約を破らない為に、キスしなくてはならない」
ゴスマリ→「契約を成立させない為に、キスさせてはいけない」

クリアしなくてはならない条件と目的が反転しているのがわかる。字面だけ見ると、リトマのアースラ視点がゴスマリと言えるかもしれない。

【2】手段
リトマ→「偽花嫁に妨害される」
ゴスマリ→「偽花婿で妨害する」

さらに「婚約者になればいい」という解決策もアースラが「条件に合う女性」を装って婚約者に滑り込んだのと同じ方法になっている。しかもこれ、発案者がアズールである。

【3】キスしろコール

リトマ→「キスしそうになる程盛り上げる(♪ kiss the girl)。ウツボたちが妨害して終了」
ゴスマリ→「ウツボ(フロイド)を発端に始まり、盛り上がる。キスされそうになる」

リトマで応援の為だった「キスしろコール」も、作戦の目的からすると逆に追い打ちになっちゃっている。

他に「応援→追い打ち」の反転は『「ブチュッ!と』もある。

リトマ→「はやくブチュッとすればな!」
(スカットル)ゴスマリ→「さっさとブチュッ!とするがいい」(リリア)


イライザ、姫じゃないと思う


こうしてリトマを土台にしていると考えていくと、イライザ姫って、リトマでの立ち位置は王子(エリック)なんだよな。リトマで「理想の結婚相手」を探しているのは姫(アリエル)ではなく王子(エリック)だ。

彼は、アリエルに出会う前から「相手なら何処かにいる。見つからないだけだ」とあてもなく理想の女性を探していた。

そして人間になったアリエルに出会った後も、「綺麗な歌声」の思い出に執着して海に向かって笛を吹いたりしちゃっていたのだ。アリエルに惹かれていたのに、声が出ないから、条件に合わないからって本当に自分を助けてくれた人に気がつかずに、居もしない「綺麗な歌声の女性」のことを考えてたんだよね。

そこに家令のグリムズビー

「王子様。申し上げますが、幻の女性を追うより、あたたくて優しい現実の女性が、目の前におりますよ」
━『リトル・マーメイド(吹替版)』


と進言する。 グリムズビーは、相手が姫でなくてもエリックが気に入ったのならいいと思って、彼すら気がつかない彼の内心を鑑み、軌道修正したんだ。「夢みたいな条件に合わずともいいじゃないですか」と。それでエリックは自分の感情に向き合い、気が付いた。

けれどイライザにはそれがなくて、500年も幻を追いかけていた、そういうことである。



不在の家令


イライザは、「グリムズビーのいないエリック」だったんだと思う。エリックは、家臣たちに明るく優しく接していたし、家臣たちや国民たちから「幸せな結婚」を望まれていた。愛されていたんだ。 だからたぶん、イライザが家臣や国民たちを大切に思う気持ちも嘘じゃないし、家臣たちが「姫が幸せになること」を望むのも嘘じゃない。(此方としては死ぬほど、文字通り死ぬほど迷惑千万ではあるが) 本当だからこそイライザ姫は、「幸せになって皆を喜ばせなきゃ」と躍起になっていたんじゃないか? 

そもそも、従者たちに「過ぎたことは気にするな」と言える姫が、自分の幼い夢の為だけにこの世に執着できるのか、というのが不思議ではあった。確かに姫は生前には本気で「素敵な王子様と結婚したい」と夢をみていたのかもしれないけど……。言動をみるに、”昔のこと”にこだわっているのは、どちらかというと家来たちに見える。

「イライザ姫=エリック王子」の立ち位置であるなら、アリエルはチャビーだろう。全く条件に合わないが、手を取りたいと感じる相手。

もしもイライザが生きている頃から、(エリックのように)無意識にチャビーを想っていたなら。チャビーが「姫様には幸せになってほしい」「きっと夢は叶いますよ」と励ませば励ますほど、彼女が”夢に前向き”になってしまったのはわからんでもない。 

そのすれ違いがゴーストになっても続いていたと考えると、彼女がずっと追い続けてきた「王子様の条件」を「部外者の一言」と「チャビーの危機」で簡単に放り出してしまったのも辻褄が合う気がする。

ゴーストの未練


そもそも、ゴーストが未練を晴らすと消える存在であるなら、未練はゴーストにとって正しく「存在する理由全て」だ。駆動エネルギーそのものだ。生者の命と同じものだ。ならば説得でどうにかなる話ではないし、そんなことなら花嫁ゴースト退治用の指輪だって生まれなかったはずである。

エースたちに責められたチャビーが「間違いだろうが、なんだろうが、かまわん」と姫を守ろうとしたのだって、それが未練だったからだ。家臣たちは「姫を守れなかった」と悔やんでいたじゃないか。きっとチャビーが一番それをしたかった。でも出来ずに、未練になっていたんだ。「姫の幸せの為、守って戦うこと」が彼の未練だったから、誰にどう言われようとそれを実行してしまった。そしてやりきってスッキリし、未練を晴らし、ウッカリ消えそうになってしまったんじゃないか。

もしも「条件に合う王子様」が本当にイライザの未練であるなら、チャビー同様、何に於いても譲れず、捨て去ることなんてできなかったはずだ。それが第一であり、誰かに言われなくとも諦めることなんて出来ないのだ。

しかしイライザは、どうやら励まされないと頑張って来れなかったらしい。

私、あなたがいつも優しく励ましてくれたからどんなに辛くても夢を追いかけてこられた。
私にはあなたが必要なのよ!
━ゴーストマリッジ / episode24


嫌な言い方をすると、チャビーが「姫の幸せを守りたい」が故に励ましてしまい、それが原因で姫は「夢を追い続けてしまった」ということになるのかもしれない。

姫としては、生前に本当に夢見ていたからこそ、「夢を追いかけているからチャビーが励ましてくれる」のか、「チャビーが励ましてくれるから夢を追いかけているのか」、その辺の境目が曖昧になっていたんじゃなかろうか。自分の望みのどの部分が未練なのか、それすらわからなくて……。

だからなのか、姫は、リリアが自分に意見したときは歯牙にもかけなかったのに、エースたちがじいやとばあやの「姫様の為」を批判したときは動揺し、話が通じた。チャビーを含め、家臣たちの考え、望みの話となると、姫の心が揺らぐんだ。

そして家臣たちにしても一貫して「姫様の為」。「姫の幸せがわしらの望み」。

つまりは、彼らの未練には主体性も具体性もない

拠り所となる姫の望みさえ、姫自身がキチンと把握できていない。まるでエリックのようにだ。だからいつまでも解消されずにすれ違ったままになっちゃってたんだよな。誰一人として、未練のすれ違いを自覚できていなかった。



リトマの”不在”


 エリック王子には、イライザと違って……きちんと彼の様子を見て助言をくれる家令・グリムズビーがいた。けれど、『リトル・マーメイド』では……エリック王子側の人間関係が噛み合っていたかわりに、違う場所に「すれ違い」が発生している。


もちろん、アリエルとその父、トリトンである。


これ、リトマを見た人は殆ど必ず感じることだと思うのだけど……正直トリトンという父、びっくりするぐらい子育てがドドドドド下手くそなのだ……。海の上に興味津々のアリエルにも、「海の上は危険だから出るな」と繰り返すだけ。人間は野蛮だ、と言って、全く娘の言い分を聞かない。そればかりか、地上オタク(アリエル)が必死にコツコツと集めたコレクションを目の前で全部粉砕してしまったりする。

全オタクは想像してほしい。「完全に頭がいかれたようだな」と言われた上で、自分の推しグッズがぐちゃぐちゃにされ、粉々に割られ、跡形もなくなる場面を……。そんなことをする人物の言う事を聞きたいと思うか?

否である。

一応フォローするけども、トリトンパパは、ただアリエルを心配しているだけだ。彼の心配も、全く的外れ……という訳でもない。人間に対してドぎつい差別意識はあるものの、まあまあ事実に基づいてる。セバスチャンが人間に見つかった際には、必ず料理されそうになるし、海の住人にとって地上が危険な事は間違いない。

でも、事実だとして、伝え方が壊滅的にド下手くそ過ぎてもうダメ。それに尽きる。

そしてトリトンには、父としての暴走をコントロールしてくれる存在、アリエルの母たる妃がいない。妃アテナは、アリエルが小さい頃……人間の船に衝突して亡くなった。トリトンは、アテナを失ったようにして、アリエルを失うのが怖かったのだろう。だから暴走するのだが、それを止められるとしたら今は亡き妻だけ。父娘の間柄だけでは解消不能の負のスパイラル。

アリエルとトリトンの間には「すれ違い」を是正してくれる存在、アテナが不在だった。


その為、父娘関係に亀裂が走り、そこをアースラに付け込まれたのだ。


ヴィランの役割


アースラは、契約不履行を理由にアリエルを質に取り、トリトンに身代わりになるよう迫った。こうなるとトリトンは、アリエルを守りたい一心でアースラの契約書にサインしてしまうしかない。
自分がペナルティを負って力を失い、王のトライデント(最強権力の最強武器)が奪われると分かっていても、アリエルを守るにはそれしかないと知って、トリトンは逆らえなかった。
自分の為、身代わりになった父を目の当たりにしたアリエルは、アースラに怒り、敵意を持って飛びかかった!「この怪物!」と叫びながらだ。アリエルは、父からの愛と、父への愛を強く認識し、父の為に戦おうとした訳である。


アースラは害意をもってアリエルに近づいたし、彼女とトリトンを本気で追い込んだ。しかしながら……

逆にアースラが何もしなかったら?

と、考えると、やはりあの父娘関係は袋小路で、どうにもならなかったろうと思う。何しろ、アテナ(母)が不在であるので。



アースラが敵として現れたことで、父と娘は互いの為に行動し……思い合っていると確かめられて、「すれ違い」を解消できたのだ。


「リトマの反転」たるゴスマリも、「グリムズビーの不在」によって延々続いていた「すれ違い」をヴィランの介入で解決に導いた。


チャビーの「姫様の幸せを守って戦う」という未練は、「姫様を害する敵」がいなければ永遠に晴らせなかったろう。チャビーが敵と戦って消えそうにならなければ、「チャビーは自分に必要だ」とイライザが感じる事はできなかっただろう。


NRCは、『リトル・マーメイド』におけるヴィラン・アースラの役割を、意図せずこなした訳である。

絶妙に的確でない批判


結果的に、イライザがチャビーを選ぶ上で、「エースの言葉」はヒントになったのだろう。けれど、エースたちは言葉だけでゴーストたちの問題を解決することはできなかったろうし、する気もなかったんだ。偽花婿が破綻した以上力技しか無くて、「指輪」で無理やり問題を消し去るつもりでいた。それしかないのだと。

だからこそエースはムカついて、文句のひとつも言いたくなったのだ。訳わかんねーお前らの問題のせいでこんなことになってんだぞ、と。
あくまでエースは、「王子様の条件」に姫が強く執着していると考え、その「我儘なこだわり」に腹を立てていた。だからこそ、かつてのハーツラビュルの問題になぞらえ、「姫の暴走と、それを放置する家臣たち」という構図を批判した。

けれど、ハーツラビュルとゴーストマリッジの問題では、決定的な違いがある。主と配下の関係性だ。
トレイたちは、リドルに対し「批判を受け入れられない理由があるんだ」としていて、自分たちの声がまともに通じるかどうかにも自信を持てなかった。だからこそ無難に「はい、寮長」と従う方を選んでいた。

しかしゴースト家臣たちにとって姫様は、ぽつりと後悔や悲しみを口にするだけで、自分たちの望みを叶えようとしてくれる優しい主である。 更に言えば姫は、家臣たちを慰めるために「自分の夢」の存在を掲げていた。

<じいや>
だがお命を守れなかったわしたちを一切責めず姫様はいつも笑ってくださる。
いいのよ。気にしないで。大丈夫。きっといつか…………姫様はいつもそればかり。
━ゴーストマリッジ / episode22

つまりは、「姫様の夢」は家臣たちにとって、横暴な圧政ではなく、縋りたくなる唯一の希望だったのだ。

これは、「家臣たちが姫の暴走を放置していた」というより、「家臣の未練と姫の夢が増長し合っていた」という方が近い(まるっきり間違いでもないが)。放置ではなく、推進である。しかも、夢の途方もなさに姫が落ち込むたび、「姫様の笑顔を守りたいチャビー」が励まして前向きになってしまう。

そんな感じで、内包する問題はハーツラビュルとあんまり似ていないのだが、一番重要な部分で共通点がある。

主であるリドルとイライザが、「自分の望みを顧みること」で事態が解決に向かった、ということだ。

リドルは「法律」を重要視していたが、それとは別に自分の望みも持っていた。マロンタルトを食べたかったのだ。その気持ちを晒し、周囲に聞いてもらうことで、自分以外の誰かの望みと、自分の望みと、法律とを切り分けて共存させることが可能になった。 イライザも、チャビーへの気持ちに気がついたことで、「理想」とは全く別の打開法を見出した。

 エースたちは、リドルに対してもイライザに対しても、「彼らの本当の望み」を分かっていて口出ししたわけじゃない。むしろ、実際には若干的外れだったからこそ、相手の怒りを買ったのだと思う。 これは結果論だ。だが……自分の望みを抑圧して法律を遵守するリドルを「我儘」と呼んだらそりゃキレるだろうし、姫様を守ることが全てのチャビーにその行動が間違いだと言ったら逆上するに決まっている。

 けれど相手の感情を昂らせる、その手法こそが、成功を呼んだんだ。

 何にもわかってない部外者からの、お前はこういうやつだ!!とお前たちはこういう状況なんだ!!という決めつけ。反発したくなるような指摘。それ浴びせられることで、「違う!!自分は……」という言葉が引き出される。彼らの「真の望み」が露わになる。 チャビーは自分の真の未練の為に戦い、イライザはチャビー失いかけることで自らの望みに気がついた。

 エースが最後ゴーストたちに向き合う役割を課せられたのは、「問題の中身」がハーツラビュルと似ていたからではなく……「問題の解決法」がハーツラビュル流であるべきだったからなのではないかと思う。


モチーフと土台と結論の三重奏


 ここでまたリトル・マーメイドの話に戻るんですけど、結局『オペレーション・プロポーズ』って失敗したんだよね。タキシードまで着て準備したのに、力技でボコボコにしただけで求婚してないし、指輪も使わずじまい。

 アースラの「偽花嫁作戦」も失敗に終わっている。エリックを洗脳状態(?)にして結婚式まで開いたけれど、全力で妨害されて、どさくさに紛れ、「お代」と称して奪った歌声まで取り戻されてしまう。びっくりするほど大失敗だったのだ。 けれど、ギリギリ「3日目の日没」という刻限を過ぎて、「契約を成立させない為に、キスさせてはいけない」という目標は達成する。

正直、『オペレーション・プロポーズ』に関しては、タキシード着たSSR、「断絶の指輪」なるアイテムまで出しておいて、それでええのんか???と思わないでもない。

けれど、あれが『アースラの偽花嫁作戦』だったとすれば、最後の最後で台無しになっておきながら何故か目標を達成しているという図は納得できてしまうな……と思う。

解決法にハーツラビュルを持ち出しているんだけど、土台としての「リトマの反転」は全く崩れていないわけだ。すごい。凄すぎる。くらくらしてきた(?????)


いやね、違うんですよ。ゴーストマリッジって、あれじゃん。


死者というモチーフ、物語の中心人物は『ヘラクレス』。
物語展開と抱える問題の土台は『リトル・マーメイド』。
問題を解決に導く破壊手段が『不思議の国のアリス』。


といった風に、ミルフィーユ的多層構造になってるわけじゃん。それなのに、その3つの要素が全然邪魔し合ってないのが天才すぎて目をひん剥いてしまう。

だって、トリトンとアリエルが抱えていたわだかまりって、寮生に圧政を強いてたハーツラビュルの問題と絶妙に一致する。決まりだからだ!っていって、自由を奪って、亀裂が生まれたんだから。それを既に乗り越えたエースの方法論で「エリックとアリエル(イライザとチャビー)」のすれ違いを軌道修正するのは、構図として凄く納得できる。

関係ないけど、ちゃんと関係あるんだよ……! 一体どうなってやがるんだ。

リトル・マーメイドは文字通り若く幼い人魚の巣立ちの物語だけど、その反転のゴーストマリッジは、500年間彷徨った死者の締めくくりの物語で。そうかだからゴーストだし、イデアなのか、となるではないですか(???)

別々の作品を組み合わせただけじゃなくて、そうなって然るべきという構造になってるの、凄すぎる。

もうこうなったらヘラクレスの要素とか散りばめられてる話もしたいけど、ちょっとその話はまた今度でいいすか?

とにかく、『ゴーストマリッジ』を『リトル・マーメイド』を土台に解釈すると、こうなるよ、というお話でした。

 

おしまい。

ハアア〜〜〜〜〜〜〜……すげーよホンマ……(ブツブツ)

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