考察キッチン

KOUSATSU-KITCHEN

D映画『海底2万マイル』で悲鳴上げた。

※D映画『海底二万哩(海底2万マイル)』の全編のネタバレを含みます。ご注意ください※



いや『海底2万マイル』!!!


いやいやいやいやいや!!!!

本気か!?!?

ディズニー・シーのアトラクションにもあるし、いつか見たいなとは思っていた。
ひょんなキッカケから気軽に見てしまったが、いやいやいや。エェ!?!?

名作なのもわかってたけど、トンデモネェ作品だったよ……

これどの辺がジュール・ベルヌとDオリジナルの境目かわかんないけど、少なくともこの記事ではD映画の話しかしないのでよろしくお願いします。
ヒエ〜〜〜〜〜


ネモ艦長!!

いやネモ艦長!!艦長!!

本気で我々の傷になるつもりか???
そうなんだな???
…………ヒ………………………………………………………。

いや…………まあ、我々(私)のことはさておくとしても、多分少なくともアロナクス教授の傷にはなってるんですよ。
どうしてくれんだろう……??

ネモの信仰

ネモ艦長の立ち位置って簡単に言っちゃえば「海底に自分から引きこもってる人」なんですけど。
その理由が「どの国にも所属するつもりがない」っていう『世間』に対する反発的な方針です。
彼が作ったノーチラス号(潜水艦)は、映画の世界の中では「人類の夢」ともいえる技術。海底の自然・資源も「地上に頼らなくても十分」なほど豊かです。
そんな環境を利用し、未知のエネルギーさえ見つけたネモの発想や技術は天才的
だからこそ、地上にいると当然に力のある組織(国家)に利用されてしまいます。
かつてネモは何処かの国家が持つ強制収容所におり、その技術や知識を狙われていました。その国家を、ネモは”憎むべき国家”と呼んでいます

”憎むべき国家”は、秘密裏に戦争のための力をつけようとし、また実際に戦争をしている。

自分の作ったものが、知識と技術が、戦争の種となり多くの人を殺す。それが嫌でネモは安全域の島へと仲間と共に脱出し、ノーチラス号を作り、海底の恩恵を受けて生きています。それがネモ艦長の生活です。
そこへ教授たち3人組が遭遇して、「怪物だと思っていたものが技術を結集した潜水艦だった」と知るところから展開が動き出します。

海底オタク

当然に外の世界が嫌い嫌いの大嫌いなネモですけど、それ以上に「海底オタク」なんですよね、彼……
海底にある自然について話す彼は笑っていて、他のシーンと比べると楽しそう。海底にこの世の全てがある、この世の楽園=海底!!くらいの勢いで語ってくる。
貴様はどこぞの人魚の国の宮廷音楽師(カニ)か?
いや、ネモ艦長は全然明るい曲弾いてくれないけど……。。


彼の海底への愛情は、外の世界への憎しみからくる「外の世界ではないもの」への愛情が根幹ではある、あるんですけど、それ(海底の素晴らしさ)を「平和」に広めることができるなら他者に伝えたい(分かち合いたい)……という気持ちもあるんです。
だからこそ海洋学者であるアロナックス教授には積極的に知識や技術を共有しました。自分の信頼できる人を、「外の世界への使者」にするために。

そういう行動に、本当に全てを遮断したいわけじゃない、というのが滲み出ています。

憎しみ

ネモは、”憎むべき国家”の秘密裏な輸送船を見つけるたび、攻撃し、沈めているんですが……。

当然沈めた船に乗った人たちは全滅です。
確かに、その船に積まれた貨物は人を殺す戦争に使われますけども。
殺しを恐れて、殺しをするという矛盾に気がつきながら、殺しをする自分に追い詰められながら、それでもやめられない。

彼は決して「殺しをなんとも思っていない人間」ではありませんが……
……はたから見ると、ネモは「攻撃もしてきていない船」を沈め、積極的に殺しをしているようにしか見えない。

ネモの行っているのが無差別な攻撃ではない、というのは本編の描写にもあります。例えばちょっと辺鄙な島に住んでる原住民とかがノーチラス号に乗り込んできた時は、電撃をバリバリバリ!!!ってやって脅かして追い払うだけなんですよね。
あと、堂々と国旗を掲げている船には『攻撃されないかぎり』攻撃しません。後ろ暗いところがある、とみた相手を狙う決まりなのでしょう。


ネモの攻撃衝動は多分、過剰防衛です。
その時点でたとえ、相手に「ネモに対する攻撃意思」がなくても、過去自分にそうしてきたものと同じ所属だと判断すると、消さなくてはならないと感じる。踏み躙られた思いが暴れ、そうするしかなくなる。
攻撃し、殺すとなると、憎しみは満たされますが……それがかつて自分を踏み躙った存在と同じ行為だということも解ってしまう。だから鬱々とするし、パイプオルガンに感情をぶつけるしかなくなります。
(バッハのBWV565/鼻から牛乳〜の曲)。
(オルガンの音に圧がありすぎてコッチもウヘェ……てなっちゃったよ……)



信頼と情

けど、同時に、運命をともにしてくれる船員たちにはものすごく信頼があるし、そういう『仲間への忠誠心』を信仰してやっと生きている。それだけは自分にとって確かなもので、「信頼できる人間かどうか」の基準にもしています。

<ネモ>
自分の命を仲間のために犠牲にできる人だとわかって安心した
*1

基準をクリアした教授に対しては、自分のトラウマの原因を見せて打ち明けたりもします。使者にする為という都合もありますが、別に急いでるわけでもあるまいに、どんどん色々なものを見せてくれるんですよね。研究者としてシンパシーを感じるのか、警戒心を解くのが早い。仲間への情を感じる人物なら、心を許すハードルはそこまで高くないように思える。

心の奥底には、憎しみだけではない何かを宿していて、頑なに変化を拒むのではなくて。或いは手を取り合うこともできる……そういう予感をこちらに覚えさせてくる。

そこが『海底2万マイル』のヤヴェ〜ところです。

なぜなら、そういう教授とネモの交流と平行して、

「ネモ&教授」⇆「ネッド(陽キャ船乗り)&コンセイユ(研究助手)」の対立

が進んでいくので。
ちなみに教授とネッドとコンセイユは本来仲間です。 は? 地獄か?<
>


態度と先入観

このネッドってのが、もうネモに対する好感度-500くらいのスタート。
「あいつはイカレてる!」って態度なんです。まあ潜水艦(ノーチラス号)に軟禁状態だしネモに命握られてるのは確かなので正常な反応って言ったらそうなんですけど。

でも海洋学者である教授がネモの技術や知識に魅かれていることすら、悪いことのように感じています。学術的興味が理解できなくて、そこで既に距離がある。そして「生きて帰りたい!」って思いから教授とも距離を置くようになります。

研究者としての思考も、海底への愛情も。ネッドはもう、ネモのやることなすこと「理解できねえ!」ってなっちゃって、気味が悪くてしょうがないんですよね。

ネモが海底産の料理を食卓に並べるのもドン引き。
仔牛だと思ったら海蛇の肉、ラムかとおもえばフグ、果物の砂糖漬けはナマコだし、プディングは蛸の腹子のソテー。

正直現代島国の人間としては『そんな拒否するほどのもんか?うまけりゃよくない?』て気分にはなるし、実際正体を知らされるまではネッドも美味しそうに食べてる。けど、何が原料か聞かされてしまったら無理。受け入れられない。

<ネッド>
マトモな食いもんはないのか?


馴染みがないというだけで悪く言って嫌ってるわけです。
このネッドの頭の硬さって最初からで、「海に怪物がいる!危険だ!」って注意喚起してる人の話も鼻で笑って茶化したりしてたんですよね。自分の常識外のものは、とことん受け入れない。

これがかなり感じが悪いんで、こういう面については海底産の食事を「美味しい」と客観的に評価できる教授の方が上品に見えるんです。

けど、「帰りたい」を優先するネッドからすると、教授の学術的興味も相当極端。彼(ネモ)は素晴らしい、彼を説得できれば大発見を世に出せる、世界を変えられる、ていうのを言い続けて、その話題になると興奮して語調が強くなってしまう。冷静になれば死を恐れる気持ちもわかる筈なんだけど、興奮してる時は「命よりネモの秘密(科学的発見)の方が大事だ!」とかも言ってしまう。
ネモの攻撃行動が人から恐れられるのも、恐怖から無闇な先入観を生むことも、冷静になれば分かる筈なのに……助手が「彼は殺しを楽しんでる」と言ったときも、一方的にまくしたててしまう。

<アロナクス>
判断だと? 何も知らない癖に。
ネモは世界に役に立つ、非常に重要な人間なのだ。それを彼にわからせなければ。それさえ納得したなら、彼は君以上に厳しく、自分を裁くだろう。
わかったかね!

そういう態度のせいで、それまで教授に従ってきた助手のコンセイユも、『教授がネモに丸め込まれてしまった』と恐れて、「助かりたい」という思いからネッドの中途半端な脱出計画に協力してしまう(メッセージボトルで場所を示し迎えに来てもらう行き当たりばったりな計画)。

それが結局、ネモの言う”憎むべき国家”を基地に呼び寄せる結果になってしまうんですよね。

ネガポジのバランス

ネモは確かに自分の恣意的な判断で武力を奮っているし、それはかつて自分が受けた仕打ちと同じで、その時点ですでに矛盾を抱えているんだけど。

<ネッド>
俺と同じ船乗りを、アンタが仲良くしたがってる奴が、殺したんだ。


<ネモ>
これが答えですよ、教授。あなたが取引しようとした相手に待ち伏せされた。


相手が敵だと思うから、攻撃する。それってネッド含めた調査隊だって、"憎むべき国家"の軍隊だってやっているんですよね。それはネモの言うような人の残酷さの証明でもあるし、希望のよすがでもある。

あれだけネモを毛嫌いしていたネッドでも、ネモが死にそうになったときには思わず助けてしまったからです。
そして教授もコンセイユも、意見を違えども、最後の最後には互いを見捨てたりはしなかった。
それぞれが、互いの理解できない面を恐れ、嫌って、攻撃し……けどやはり見捨てきれずに手を取り合うことだって有り得る。それぞれの感覚に叶ったとき、それは起きる。得難い結果だけれど、ゼロじゃない。そういう、ネガだけに偏らないバランス感覚のような希望が、薄らと、けど確実に漂っている。


だからネモだって、もしかしたら。

そもそも、『仲間への情』を信仰していたネモが、自分を助けたネッドの行動に心を打たれない筈がないんですよ。彼がもしも、『仲間』の領域をあと少し広げていたら、そうするための時間がもう少しあったら。
もしかしたら……。
教授を使者として、彼の知識がポジティブにあの世界を変えることだって、有ったかもしれない。そうすれば、ネモだって外から逃げる意味合いじゃなく、「海底は素晴らしい!」って、ただその研究心だけを働かせればいい日が来たかもしれない。
全員を平等に描く思想が表現全体に滲み出ているから、希望がチラつくんです。





……実際は、そんなことにはならなかったんですけどね………………。


希望!!


ネモの知識の砦であるバルケニア島は"憎むべき国家"に見つかってしまい、技術を奪われない為には爆発させて全てを破壊するしかなくなった。
ネモが潜水艦と共に沈み、死んだのも「知識」を破壊するためです。基地の場所が知られた以上、もしもネモが”憎むべき国家”に見つかって、捉えられ、延命されてしまったら……。また同じことの繰り返しですから。

<ネモ>
だが、希望はある。世界がより良い、新しいものになったとき。全てが実現するに違いない。
その日が、必ず……。



もしも、"憎むべき国家"にネモの秘密の全てを握られてしまったら。
そういう、最悪の事態は避けることができたし、ネモの言うように、世界が変わる可能性も、技術の進歩の余地も、失われた訳じゃない。だから「希望はある」のかもしれない。


でも、ネモ艦長は死んでしまうんですよ…………。
違うんよ……希望って、希望って。
世界全体の希望だけの話じゃなくて…………個人の中に生まれるそれだって希望なんですよ……。

「生きたい」とか「楽しい」とか。ネッドが体現していたのって”それ”でしょう。その積み重ねが全体じゃないか。
ネモはさ、全体のことを考えて動いているように見えるし、実際そうだから大きな力を持っても「全ての破壊」に向かわなかったんだと思う。
でも、彼の根源は"愛"と、それに代替する"憎しみ"なんですよ。

<ネモ>
愛の意味を知っているかね、教授。

<アロナクス>
……知っているつもりです。

<ネモ>
貴方にわからないのは、憎しみの力だ。憎しみは愛と同じように、人の心を満たせる。

<アロナクス>
……気の毒に。憎しみに生きるとは……


自分の記憶と感情なんですよ。
その感情を少しでも、彼個人の希望の器に乗せられたら。

ネモ艦長が元気に海底オタクだけやって生きれる未来だってあったかもしれないって……思っちゃうんだよ…………。。。
ネモ艦長が最期に「希望はある」と言えたことは、艦長個人の微かな幸福だったのかもしれないけど。ただひたすら「生きたい」ってもがいたネッドに少しでも心動かされたならさ……。ネモの……彼の命の中にしかない希望の先が…………見たかったんだよ…………わしゃ……。。ウウ……

物語の終わり、浸水し沈没する潜水艦、爆発する島と対照的に、教授たちは生き残る。

<アロナクス>
これでよかったのかもしれない……。



世界を変える鍵であるネモの全てが破壊されたから、悪い方にも、良い方にも、何も変わらなかった。だから、”よかったのかもしれない”……?
少し前の教授には「こうならなかった、生きたネモが作り出す未来」が確かに見えていた筈なのに………………


殺しを防ぐため、殺しをしていたネモのように、

ネモの全てを破壊することで、世界の破壊を防いだことを、安堵するしかない。



……

……泣いていますが……………………?




ネモ艦長……アンタ……

アンタが教授の心につけた傷、もう一生治らんし人生のテーマになってしまうのわかってるか…… ?

ハァ…………
……


あの映画にエスメラルダ(アシカ)が必要な理由がよくわかるよ…………。
ネモもネッドも、我々も、エスメラルダが可愛いだけで笑顔になれるもん……。



zara.hateblo.jp

*1:当記事の引用は全て、映画『海底二万マイル』の(日本語吹替版)を参照しております。